人民元、切り……下がる

為替レートの部分自由化を決めた人民元だが、当局の介入があったらしく、自由化二日目にして、若干の下落となった模様。ストが頻発している時に為替暴騰などというのは避けたいだろう。自由化したと思ったら、強力な介入である。ただ、この介入のおかげでドルの価値は維持されている。G20では、アメリカと中国の間で、どういうアホなやりとりがあるのだろうか。

ユーロ圏では、英、独、仏が銀行課税強化で合意している。一つの時代の終わり、という感じである。ユーロ安でドイツ企業は輸出を伸ばせて嬉しかったようだが、メルケルは「ユーロの維持はドイツの国益」と力説しているもよう。

イギリスは、徹底した緊縮政策に入っている。ケインズ的処方からすると×なのだが、考えてみるとソロス率いる国際投機集団に、ポンドの切り下げを強いられた記憶はけっこう生々しい。通貨暴落に対する恐怖感は強いのだろう。ただ、イギリスの場合、決定的に為替価値を下げて、中進国レベルまで落ち込むことで、産業国家として再生できると思うのだが。

日本では、消費税10パーセントの攻防といったところか。管首相は「政治生命を賭ける」とまで言っている。このコミットメントを有権者は好感するのか、忌避するのか。

ちなみに、著書『バブルの興亡』では、私は消費税を16%まで上げることを提言(として読んでもらえたのだろうか)している。これは、数年前の経団連の数値を、そのまま借りてきてのものだ。最近では、榊原英資氏が20%という数字を出していた。このまま消費税の目標値は、上がり続けるのだろうか?

要は、財政改革の目標をどこに置くか、という問題だと思う。政府債務をどこまで減らせば安全なのか。この議論から、まず始めなくてはなるまい。私としては、国家破綻を戦略的に行うほうが賢明だという気がしてきている。

銀行危機、やまず(アメリカ)

ネバダ州で銀行が閉鎖された。今年に入って破綻したアメリカの地銀としては、83行目である。昨年6月の時点で40行だったというから、相当に危ない。連邦預金保険公社は、銀行破綻に関しては「今年がピーク」と見ているが(どういうマクロ経済予測にもとづいているのだ?)、同時に今後4年間で1000億ドルが破綻銀行の預金保証に費やされるとも予測している。これら地銀の経営悪化は、商業用不動産の価格下落らしい。ここから急激かつ大規模に問題が悪化するような気がしてならないのだが。

クルーグマンはドイツが「1932年の再現」だと評しているし、エリオット・ウェーヴ研究所のデビッド・プレクターは、数年後にはダウ平均が1000ドルまで下落するという予想を出してきた。徐々に超悲観論が広まりつつある、ということか。私も二番底論者なので、このあたりの展開は、ちょっと心強い。

アフガニスタンの鉱物資源の話だが、埋蔵量の推計額が1兆ドルから3兆ドルに跳ね上がっている。何が起きているのやら。中央アジアコンゴが生まれた、ということだろうか。経済発展よりは資源争奪の大戦争に発展するというのが順当な予想だろう。

日本の新幹線のベトナムへの輸出が、ベトナム議会に却下されてしまった。ベトナムは純然たる民主主義国でないのだが、そんな国の議会に「金がかかりすぎる」と、見れば誰でもわかるような問題点を指摘され、挙句の果てに葬り去られた不幸な案件。だいたい、日本の東海道新幹線は、東京と大阪の間に横浜、静岡、浜松、名古屋と、巨大産業都市がいくつも並んでおり、経済効果が高かった。だが、ハノイホーチミンでは、間に観光地しかないのだ。私としては、ハノイ=ハイフォン間から始めるのが賢明だと思うのだが(ハノイの空港からハノイ市内、というのも悪くなさそうだ)。

ただ、新幹線や原発などの大規模輸出の場合、成功すればしたで、円の為替レートが切り上がって、国内景気的にはもとの黙阿弥という結果になりそうである。今の、世界でも有数の人件費の高さを誇る日本で「外貨獲得」は経済戦略の目標になるのか。そのあたりを、きちんと詰めてほしかった。もっとも、これは鳩山政権時代の話だ。管政権では……いつまで続くかわからないが、もっと議論が粗雑になるのだろうな。

そんなことを言っている間に、新しい週が始まった。

人民元、切り上げへ?

人民元がドル・ペッグをやめるという記事が、朝日の一面に載っていた。一面トップはワールド・カップの「日本惜敗」だが、どちらが重要事項やら。もっとも、いちばん重要な記事は小さく扱うのが朝日流、というところもあるので、別に目くじらを立てる必要もない。
結果は実質、人民元の切り上げなのだろうが、これが中国の労働者のストの大波と同時に起きると、海外企業としては中国に投資するのに二の足を踏まざるを得ないのではないか。中国人の労働者としての適性は凄まじいもので、農村がまるごと画家になって偽ゴッホを描いたり、昨日まで畑を耕していた人たちをバイオリン職人に仕立て上げたりするのだが、それでも付加価値の高い製品を作るような教育投資を中国政府、中国企業が行っていないというのも、また事実である。中国市場が今後、世界中のみなさんの期待の通りに巨大化するか否かは、ひとえに中国の労働者の生産性にかかっているわけだが、これがけっこう怪しげなわけである。今回の為替政策の変更は、まあ切り上げになるのだろうが。

トルコ空軍が、イラク北部に爆撃を加えた由。トルコが突然、イスラム寄りになった理由だが、国民の価値観の変質もさることながら、アメリカによるイラク改造がイラク国内のクルド族の自治権をどんどん強化しており、これがトルコ国内のクルド族の独立運動を強めるという連鎖が作用しているのだろう。もっとも、トルコ共和国が建国以来の国是である世俗主義を捨てたのであれば、トルコ語の単一言語主義も捨てることが可能、つまりクルドトルコ人との和解も可能だと思うのだが。もっとも、アメリカがトルコの死活的な利益など一顧だにしないことは、わかったトルコとしては、とりあえずEUアメリカも無視して、自国のリソースを見直して、行動を色々起こしはじめたということなのだろう。先の、ブラジルと組んでのイラン擁護の動きも合わせて。

そのトルコだが、昼ドラをアラブ諸国に輸出して、大人気らしい。イスラム教徒が『ダイナスティー(古い!)』や『ダラス(もっと古い!)』、はたまた『デスペレートな妻たち』みたいな騒ぎを演じているというのが、アラブ諸国の庶民、中流にとっては一個の「解放」なのだろう。まあ、自分たちの文化に即しており、しかも自分たちの欲望に忠実なソフトウェアが登場すれば、熱狂するだろう。
トルコがイスラム・カードを切るというのは、ジョージ・フリードマン『100年予測』にも登場した予測である。これが早くも現実になりつつあるわけだ。トルコ製ソフトによるオスマン・トルコ文化圏復活は、すぐそこまで来ていそうである。

実は6月2日に、生まれて初めて大阪を訪れた。みずほ総研のお招きで、講演を行う機会を得たのである。名古屋のような街を想像していたのだが、予想を超えて大都会だった。大阪の人口の300万というのは、ニューヨーク市シンガポールと同じくらいだから、当然なのだが。探検する暇はなし。タクシーの運転手さんの話の面白さ(新大阪と講演会場を結ぶ往路復路とも)が印象に残った。
大阪の場合、国立の大阪大学があり、府立大と市立大があるわけで、これを一か所にまとめれば、活気を呼び戻すことも可能なのではないだろうか、などと漠然と考えてみた次第。もっとも、大阪市内の地理はまったく知らないので、それ以上考えは進まず。

遊説をする管直人、消費増税に触れず、という記事をYahoo! japan で見かけた。消費税の話をしたうえで、風当たりの強そうな街頭でぶれてしまうというのは、もう最悪だと思う。7月参院選は、民主党の大敗という気が、どんどん強まる。月末には管の支持率は末期鳩山なみ(一割前後)まで落ちているのかも。まあ、管の場合はほんとうに嫌な人らしいので、人格が見えてくるとともに、支持率は急落するというのは、予想がついていたのだが。

アメリカで購入したDVDを次々と見る。テレビは見ないのだが、英ぞ派よく見ているのだ。

Sexy Beast
ベン・キングスレーの怪演が輝く一作。服役を終えてスペインで妻ともども引退生活を楽しむもと犯罪者のもとに、大がかりな窃盗に参加しろという依頼を携えて、ベン・キングスレーがやって来る。その要求ぶりというのが、恫喝というのを飛び越えて、心理的拷問。キングスレーのサイコパスぶりだけで傑作。脚本、撮影もよし。

Surveillance
黒沢『羅生門』を念頭に置きつつ、関係のない領域へと飛んでいってしまった。ビル・プルマン(『インデペンデンス・デー』の大統領)とジュリア・オーモンド(誰も覚えてはいないだろう。誰も見ていないと思しき『麗しのサブリナ』リメイク版で、オードリー・ヘップバーンが演じた役をやっていた)がFBI捜査官で、田舎町で起きた殺人事件の真相解明のためにやって来る。映像と雰囲気がよく、サイコホラーとしてはそうとうに上出来。ビル・プルマンはきっと、故デニス・ホッパーの真似をしているのだろう。

Carriers
低予算ながら上出来の破滅SF。死亡率が限りなく100パーセントに近く、感染力もきわめて高い肺病によって、人類は滅亡間近。そうした中、少年時代の思い出の海岸リゾートを目指し、兄弟がそれぞれの恋人を連れて、自動車で裏道を走っていく。アメリカの人気若手俳優(ハリウッドと日本、韓流を問わず、若手の二枚目俳優は区別がつかないので、名前もわからない)と『コヨーテ・アグリー』と『地獄の変異』のパイパー・ペラーボ早見優ちゃんに似ている!)が好演。映像は美しい。数年前に完成していたのが、なぜか今年か昨年まで劇場公開を待っていたようである。

Pontipool
低予算ながら上出来のゾンビ映画。『マーダー・ライド・ショー』正続のビル・モーズレーが主演した『ゾンビラジオ』(だったか?)も低予算ながら脚本の力でなかなか楽しめたが、それと同じく、主人公はトークラジオのホスト。演じるのは『2012』のラストに登場する巨大潜水艦の艦長役で……誰も気がついていないであろう、ビル・マクハッティー。こちらはゾンビ・ウィルスが言葉に感染するというもの。では、どうやってそこから逃げるのか? 英仏バイリンのカナダならではの物語か。脚本は演劇的な完成度。演技もよし。

色々と見ていて、とりあえず面白かったのは、こんなところ。いずれも日本未公開と思われる(もっとも、以前アメリカで購入したか、アマゾン本国版で取り寄せた超問題作 Martyrs 、絶対日本に来ないと思っていたらば、劇場公開のうえ、DVDがレンタルまでされているので、先々、わからないのだが)。こちらについては、見終わり次第、順次報告していく予定。

(10日ぶり)ソロスの新刊、その他

アメリカ出張で時差ボケがなかなか抜けず、帰国後ずっと書かないままに来てしまいました。そうこうするうちに、嬉しいニュースが。
講談社より、翻訳新刊

『ソロスの講義録』

が刊行されたのです。アマゾンですと、こちら↓。

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%AC%9B%E7%BE%A9%E9%8C%B2-%E8%B3%87%E6%9C%AC%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%AE%E5%91%AA%E7%B8%9B%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%81%A6-%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B9/dp/4062161494/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1276881391&sr=1-1

自分で設立した中央ヨーロッパ大学での連続講義です。前二作をまとめて、読みやすくした感じ。私の用語解説もついてと、お買い得になっております。

ということで、本題へ。

かねて私は、アメリカとイランの接近、イギリスのアメリカから中国への乗り換え、オバマ政権の背後にあるロックフェラー財閥、中国とアメリカの国力逆転などといったテーマについて思いをめぐらせていたのだが、わかりやすい形でこれらがすべて収れんする事件が、目の前で展開中だということに、先ほど気がついた。
例の、メキシコ湾の原油流出騒ぎである。
オバマは油田の所有者(なのか? 使用権保有者?)であるブリティッシュ・ペトロレアム(BP)社を脅し上げて、200億ドルの損害賠償金を拠出させることに成功。なんとか和解にいたったことで、一時的にBP株は上がったが、2兆ドルは巨額である。経営危機は免れないだろう。
これは、いったい何なのか?
まあ、オバマとしては原油流出騒ぎの責任者をとっちめないわけにはいかないだろう。だが、これは同時に「国際社会に復帰したイランの利権を、英米どちらが独占するか」という暗闘であるようにも思われる。ついでにいえば、20世紀を通じてずっと続いてきた、イギリスとアメリカの巨大石油企業の間の争いの、最終章だ。ちょっと見には、ロックフェラーの勝ち、である。
だが、この後に何が来るかというてと……BP経営危機が第二のリーマン・ショック化し、欧州財政金融危機と連動して、アメリカのものも含む巨大多国籍銀行数行が破綻、そしてBPの残骸を中国の石油会社シノペックが買収、巨大国営メジャーズが誕生して、アメリカと中国の間の力関係は、決定的に後者有利へと傾いていく……てなところではないだろうか。イギリスが第一次、第二次大戦を経て「日の没するところなき」大帝国から、ヨーロッパの僻地にある中規模国家へと縮小していったように、アメリカも冷戦と対イスラム戦争によって縮小を余儀なくされるのだろう。イランとの和解(イランは原発の新規建設を始めると発表したが、原油価格の上昇は小幅で、地政学的リスクではなく、景気改善の見通しが動かしているようだ。アメリカとイランの和解は、やはり秒読み段階に入っているのだろうか)でもって、問題は一時的に色々と覆い隠されるのだろうが、やがてとどめの一撃がメキシコからやって来ることだろう。

日本では、管政権が増税を明確に打ち出している。そのこと自体は立派なのだが、参院選まで一月を切った段階で新政権が「増税します」とやらかすのは、正気の沙汰とは思われない。参院選で与党が過半数割れして、あっという間の政権交代という可能性が高まって来た。株価も投票日までに持ち直しているとも思えず。「簡内閣」とか「完内閣」などと言われるのだろうか。

ダウも欧州勢も順調な一週間だったように記憶する。だが、安定成長をもたらす好材料はどこにも見えない。それどころか、ヨーロッパは引き締め一色だ。そのいっぽうで原油は再度上昇基調に突入、金にいたっては記録を更新し続けている。70年代というのは、こんな感じだったのだろうか?

世界経済の希望の星、中国とインドでは、インフレ懸念が高まっている。これは当然で、ボトルネックが多い両国の経済で、しかも楽観ムードが強いのだ。好況からインフレへの距離は短い。中国とインドで利上げがなされれば(その日は近いと思うのだが)、それだけで世界中で株の暴落が起きそうである。本当に、新興国の時代なのだな。

その中国で、ホンダに続いてトヨタの工場でもストが。
これをきっかけに中国の賃金が上昇していって、かねてから期待されていた中国市場がついに姿を現すという見方もある。というか、その見方があるから、ストが起きても撤退しないのだろう。
だがね。中国の労働者が、ストが起こるような低賃金にふさわしい働きしかしていないとしたら、どうだろう? それに、工場を所有する企業と、労働者の間の関係として見られているが、共産党の地方幹部とかは、どういう役目を果たしているのか? こうした視点抜きに、中国のストの波の将来的な影響を理解しようとしても、詮無いことと思われる。

そのトヨタが、カリフォルニアの工場を閉鎖して、ケンタッキーだかどこだか、南部の州に工場を建設しようとしたところ、全米自動車労働者組合(だったか?)がトヨタに抗議を行ったという。組合によると、トヨタ団結権を蹂躙している、人権無視企業だということなのだが、下品で腐敗しており、しかも労働者に仕事を怠けさせることを本業と考えているようにしか見えないUAEに参加しない労働者の権利、というものも考慮に入れられてしかるべきだ。まあ、トヨタは大人なので、そんな(本当の)ことは言わないのだろうが。

週明け早々の下落

毎週、世界の株式市場のトップバッターは、日付変更線との一関係から最初に一日が始まる日本の、東京証券取引所ということになる。蓋を開けてみると、これが大幅下げだった。日経平均は、380円下げて9521まで来ているのである。週末には9000円を切るのではないだろうか。
この時点ではヨーロッパの三大市場は、先週末よりもかなり低いところから始めて上昇していったが、天井にぶつかった感がある。最近では金融関係の事件はすべてヨーロッパから、というのが現実なので、上下動が激しいのは当然か。いっぽうの日本は、単調な下落の果てに、底で安定である。不安というよりは、安定した悲観ムードが広がっているということなのだろう。
週末のニュースといえば、やはり管直人政権の発足である。財務相になって、それなりに言うことがちゃんとしてきたのは、リアリストの面目躍如か。総選挙まであと一月ちょいで、支持率60%超えというのは悪くない。仮に新顔効果で選挙を戦うという計算にもとづいて、人気が下がって来た鳩山をぎりぎり最後まで辞任させなかったのは、民主党の政略として正解だったことになる。ただ、株価の下落は欧米発であり、しかも少なくともヨーロッパは緊縮ムードになっている(誰かケインズを読め! 絵に描いたような「合成の誤謬」ではないか!)以上、欧米発の景気回復はありえない。わずか一カ月で支持率が30%下げる、ということもありうるのである。日本一国が少々の株価下支え策で、どうにかなるものでもあるまい。
しかも、管新首相にしても、財務大臣を務めるうちに、財政再建の重要性に気がついてきた……のはよいのだが、このタイミングで「まず増税」とかやれば、景気も支持率も大ダメージだろう。財政再建に前向きな姿勢を見せることで、長期の見通しをよくしようにも、成長戦略(ちょうど、今くらいに発表されるはずだよな)が誰の異論もなく素晴らしいものになる確率は、ゼロである。
要は、株価の下げるスピードと、支持率がそれに感応する率の問題でしかないのが、管政権の寿命ということだ。個人的には好きな人ではないのだが、リアリストであることは間違いなく、そこに一点の希望が持てる。だが、依然として「参院選民主惨敗、渡辺政権誕生」のほうが、ありそうなシナリオだ。
そうそう。参院選が微敗になっても、管は引きずり降ろされるのではないか。そして、参院選の「戦犯」にならなかった小沢一郎幹事長が、幹事長ポストに復活する、という筋書きである。「シャッポは軽くてパーがいい」と、かつて名言(迷言?)を放った小沢氏、軽さで選ぶなら、やはり渡辺喜美だろうな。

日曜日にも、こんなニュースが……

AP電によると、イランの中央銀行の総裁が「ユーロを売らない」と宣言した由。イランの外貨準備は一昨年の段階で830億ドルあったのだが、リーマン・ショック以後、営々としてユーロに切り替えていた。それが、先週イランの地方紙に、450億ユーロをドルに戻すのではないかという記事が出たことに応えての、中銀総裁発言となったようである。
なんで、イランの地方紙にそんな記事が出るかね? ドバイの経済紙ではなく?
それはおそらく、主要紙で中央銀行総裁がその記事を否定するため、であろう。
イランは、ユーロ圏を恫喝しているのだ。確かに、ここで何兆円相当の大規模なユーロ売りが起きれば、ユーロは暴落するだろう。一ユーロ=一ドルの壁(「パリティ」)さえも突破されてしまうかもしれない。ユーロ圏にしてみれば、たいへんな圧力である。そして、イランとしては圧力をかけることで、ユーロ圏の主要メンバーであり、国連安保理常任理事国であるフランスを揺さぶろうとしているものと思われる。
こんな気の利いた手を考えたのは、ギリシャ危機の支援をとっかかりに欧州に恩を売ったトルコか、はたまた本音ではイランと和解したがっているアメリカか。この手があまりにうまく行くと、次にはドル売りの恫喝でアメリカを揺さぶるという手が横行しそうだが、そうした短慮さが、またアメリカらしくもあったりする。

北朝鮮問題に関していつも不思議なのは、中国の対応ののろさだ。北朝鮮国内の流通は今や中国人商人が完全に掌握しており、中国政府には北の内情が手にとるようにわかるはずである。よほど北の経済、治安状態が悪いのか、それとも胡錦濤としては、他にもっと気になることがあるのか。ただ、中国にとっても、北の将来は(北京に近いだけに)大問題なはずである。中国共産党の意志決定の実態が、独裁ではなしに決断に時間のかかる合議制だといったことで、こののろさは説明がつくのだろうか。だが、これまでの数々の半島危機の前例から、もう少し色々と対策を考えておいてもよさそうなものだ。
ただ、北に関しては、一〇年後には今の形で存在していない可能性がきわめて高いということは言えると思う。韓国としては、統一は国民的な要望だが、そのコストがあまりに高く、しかも北朝鮮労働党の残党が統一韓国における最強の政治集団となってしまうという問題もあり、想定外だろう。かといって、国連管理というのでは、世論が招致しない。
韓国はOECSにも加盟する民主主義の先進国だが、けっきょく北朝鮮統治のために中国に倣って「特区」制度を設けざるを得ないのではないか。一国の中で、二種類の国民が存在することになるわけである。
似たような措置は、日本も財政破綻に見舞われた後で、都市部に失業者が殺到するのを回避するために、実行するかもしれない。最近、Beijing Consensus という本がアメリカで刊行され、その中身は未見なのだが、おそらく国家と個人、企業の関係を論じているのだろう。独裁のほうが効率的だという、おなじみの議論である。だが、共産中国の経験で最も役に立つのは、一つの国の中であれば法制は均質でなければならないとか、移動の自由は当然だといった、私たちの近代国家観を打ち破ってくれたことにあると思う。制度は統治の都合で決まる − この単純な事実を、経済特区制度でもって世界に思い起こさせてくれたことが、共産中国の人類文明にとっての貢献ということになるだろうか(実はアメリカも、民間警備会社の職員のほうが、全国の警察官よりも数が多くなっている。ゲーテッド・コミュニティなどによる生活空間の分割が進んでいるのだ。民間警備会社といった場合、何せアメリカなのだから、お年寄りの警備員から精強な傭兵まで、中身はさまざまなのだろう)。

ダウ大幅下げ、ハンガリー、トルコ……

米3日は雇用統計の改善が乏しいのを見て、ダウが300以上下げて、またしても1万ドルを割ってしまった。他の指数も大幅下げである。しかも、PIGS騒ぎが一段落したと思ったらば、今度はハンガリーだ。日頃お世話になっている(って、翻訳家として、売れる本の原著者にお世話になっているという意味なのだが)ジョージ・ソロスの故国ではないか。ここからはもう、悪化の一途ではないか。しかもG20では、財政赤字の削減を宣言しているそうで、景気改善は見込み薄である。読者のみなさん、シートベルトを締めなおしてください。

ハンガリー危機に限らず、PIGS騒ぎが進行している間、東ヨーロッパ諸国の経済問題は、どこかに隠れてしまっていた感じだった。こちらには、まだ通貨切り下げという選択肢が許されているが、それでも民間、国を問わず、ユーロ建ての債務は多かろう。ハンガリーの新政権は、前政権が「借金隠し」をしていたと主張しているようだが、こちらは金融技法についてPIGS諸国以上に疎い、旧社会主義国である。事実とすれば、相当に深刻だと思われる。ここから一挙に、東ヨーロッパが反ユダヤ主義一色に染まっても、私は驚かない。すでにそういう傾向はあるようなのだ。ソ連占領時代を通じて、東ヨーロッパ諸国は第二次大戦前のそれぞれの国の経験を反省することがなく、ソ連崩壊後は被害者という位置づけである。今になって、いきなり第二次大戦前のヨーロッパから反ユダヤ主義の亡霊が頭をもたげても、ある意味不思議ではない。

そんな東ヨーロッパ情勢にまで気が回らないほど慌てていると思われるのが、イスラエルである。パレスチナ支援団体の舟艇(ピースボート?)をイスラエルの特殊部隊が公海上で攻撃して死者を10人ほど出してしまった、例の事件だ。被害者の多くがトルコ人だということで、トルコ政府が怒りの声明を発し、冷戦時代から密接だったイスラエルとの関係を見直すと言っているのだ。「あんな声明を出してもイスラエルとトルコの関係は密だから、ただのジェスチャーだろう」と中東に詳しい人たちは誰しも思っていたことだろうが、何かもっと根の深い変化が起きているようである。先にイランの核問題でブラジルとともに国際社会との橋渡しを行い、シリアとも関係改善の動きを見せているトルコ。いよいよ世俗主義を捨てて、イスラムの大国として復活するということか。EU加盟が進まなかったからだという分析もあるが、むしろ国際社会におけるヨーロッパの比重が軽くなり続けて、ついにリーマン・ショックから今回のPIGS騒ぎを経て「組むに値しない相手」だとトルコに見抜かれたというのが、ことの本質だろう。これでトルコがギリシャに対してしたように、東ヨーロッパ諸国に支援の手を差し伸べたら、どうなるのだろうね。黒海がトルコの内海になるような気がしてきた。世界史ファンにとっては、なかなか感動的な展開であるよ。

もう一つおかしかったのが、シンガポールの国際問題・安全保障研究所で開かれたシンポジウムで、ゲイツ米国防長官が「北朝鮮を罰するべきだ」と発言したところ、中国の代表が「イスラエルの公海上での民間人殺傷は不問に付して、北朝鮮の軍事行動は罰するというのは、偽善である」と切り返している。もちろんゲイツは「事の性質が、その二つの事件ではまるで異っている」と反論しているが、内心では一本とられたと思っていることだろう。ちなみに、北朝鮮に対する「罰」が具体的に何をさすかについて、ゲイツは何も明らかにしていない。そりゃ、そうだろう。軍事攻撃をすれば、中国と全面戦争である。経済制裁は、どうせ中国が真面目に執行しない。だいたい、あまりに強硬な措置は国連安保理で中国が拒否権を発動してしまう。しかも、ここで北朝鮮問題でゴリ押しを続ければ、中国とイラン、トルコの接近という結果になりかねない。この強力なトリオが誕生すれば、中央アジアの「なんとかスタン」は、みなドミノ倒しのようにしてそちらに参加するのではないか。そうなれば、中国/北朝鮮製のミサイルは、飛行機を使わないで、シリアまで運搬できてしまう。そういえば、ロシアがコンテナにすっぽり収まる地対空ミサイル発射装置を開発していたような……大型トラックにも、すっぽり収まるのだろうな。

そうそう。管直人が日本の首相になった。それで参院選の劣勢を挽回できるとも思えない。ついでにいえば、厚生大臣として薬害エイズ血清汚染問題の監督責任ということで、訴訟団の原告たちに謝罪して男を上げた管である。ここで沖縄の民意を完全に踏みにじってしまえば、厚生大臣としての業績も水泡と帰してしまう。どう出るかが楽しみだ(参院選後に選挙の敗北の責任をとって辞任、という流れなのだろうが。というか、そのための登板であろう。本人がどう思っているかはしらないが)。

で、首相の座を去った鳩山だが、この唐突な辞め方は彼が官房副長官として初めて政界の表舞台に登場した細川内閣の終わり方にそっくりである。あの時は、まあ、小沢一郎が敵、という位置づけだったのだが、今回は唯一首相を支えている小沢(小沢が支えているというか、彼に支えられざるを得ない位置に、わざわざ鳩山が好きこんで立っている、というのが本当であろう)と心中である。ということは、管直人は細川の後継者の羽田孜(まだ政界にいる、というのが驚き)と同じような超短命政権で終わるのだろう。そして、その後には政権交代が待っている……羽田の次は村山富市で、村山級に首相になる能力、訓練を欠いている……といえば、やはり渡辺喜美か。

鳩山首相に対する評価は、「新潮45」の先月に書いた「戦略的無能」という評価のままです。わざとだったんです、あれは。ただ、鳩山由紀夫のキャラクターだと、とても芝居には見えない。適材適所の、ツボにはまった芝居の恐ろしさよ。

トンネルを抜けると、由紀夫、邦夫だった。そのトンネルは、鳩山という山の横腹にうがたれているのだろうか。