(10日ぶり)ソロスの新刊、その他

アメリカ出張で時差ボケがなかなか抜けず、帰国後ずっと書かないままに来てしまいました。そうこうするうちに、嬉しいニュースが。
講談社より、翻訳新刊

『ソロスの講義録』

が刊行されたのです。アマゾンですと、こちら↓。

http://www.amazon.co.jp/%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%81%AE%E8%AC%9B%E7%BE%A9%E9%8C%B2-%E8%B3%87%E6%9C%AC%E4%B8%BB%E7%BE%A9%E3%81%AE%E5%91%AA%E7%B8%9B%E3%82%92%E8%B6%85%E3%81%88%E3%81%A6-%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC%E3%82%B8%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%AD%E3%82%B9/dp/4062161494/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1276881391&sr=1-1

自分で設立した中央ヨーロッパ大学での連続講義です。前二作をまとめて、読みやすくした感じ。私の用語解説もついてと、お買い得になっております。

ということで、本題へ。

かねて私は、アメリカとイランの接近、イギリスのアメリカから中国への乗り換え、オバマ政権の背後にあるロックフェラー財閥、中国とアメリカの国力逆転などといったテーマについて思いをめぐらせていたのだが、わかりやすい形でこれらがすべて収れんする事件が、目の前で展開中だということに、先ほど気がついた。
例の、メキシコ湾の原油流出騒ぎである。
オバマは油田の所有者(なのか? 使用権保有者?)であるブリティッシュ・ペトロレアム(BP)社を脅し上げて、200億ドルの損害賠償金を拠出させることに成功。なんとか和解にいたったことで、一時的にBP株は上がったが、2兆ドルは巨額である。経営危機は免れないだろう。
これは、いったい何なのか?
まあ、オバマとしては原油流出騒ぎの責任者をとっちめないわけにはいかないだろう。だが、これは同時に「国際社会に復帰したイランの利権を、英米どちらが独占するか」という暗闘であるようにも思われる。ついでにいえば、20世紀を通じてずっと続いてきた、イギリスとアメリカの巨大石油企業の間の争いの、最終章だ。ちょっと見には、ロックフェラーの勝ち、である。
だが、この後に何が来るかというてと……BP経営危機が第二のリーマン・ショック化し、欧州財政金融危機と連動して、アメリカのものも含む巨大多国籍銀行数行が破綻、そしてBPの残骸を中国の石油会社シノペックが買収、巨大国営メジャーズが誕生して、アメリカと中国の間の力関係は、決定的に後者有利へと傾いていく……てなところではないだろうか。イギリスが第一次、第二次大戦を経て「日の没するところなき」大帝国から、ヨーロッパの僻地にある中規模国家へと縮小していったように、アメリカも冷戦と対イスラム戦争によって縮小を余儀なくされるのだろう。イランとの和解(イランは原発の新規建設を始めると発表したが、原油価格の上昇は小幅で、地政学的リスクではなく、景気改善の見通しが動かしているようだ。アメリカとイランの和解は、やはり秒読み段階に入っているのだろうか)でもって、問題は一時的に色々と覆い隠されるのだろうが、やがてとどめの一撃がメキシコからやって来ることだろう。

日本では、管政権が増税を明確に打ち出している。そのこと自体は立派なのだが、参院選まで一月を切った段階で新政権が「増税します」とやらかすのは、正気の沙汰とは思われない。参院選で与党が過半数割れして、あっという間の政権交代という可能性が高まって来た。株価も投票日までに持ち直しているとも思えず。「簡内閣」とか「完内閣」などと言われるのだろうか。

ダウも欧州勢も順調な一週間だったように記憶する。だが、安定成長をもたらす好材料はどこにも見えない。それどころか、ヨーロッパは引き締め一色だ。そのいっぽうで原油は再度上昇基調に突入、金にいたっては記録を更新し続けている。70年代というのは、こんな感じだったのだろうか?

世界経済の希望の星、中国とインドでは、インフレ懸念が高まっている。これは当然で、ボトルネックが多い両国の経済で、しかも楽観ムードが強いのだ。好況からインフレへの距離は短い。中国とインドで利上げがなされれば(その日は近いと思うのだが)、それだけで世界中で株の暴落が起きそうである。本当に、新興国の時代なのだな。

その中国で、ホンダに続いてトヨタの工場でもストが。
これをきっかけに中国の賃金が上昇していって、かねてから期待されていた中国市場がついに姿を現すという見方もある。というか、その見方があるから、ストが起きても撤退しないのだろう。
だがね。中国の労働者が、ストが起こるような低賃金にふさわしい働きしかしていないとしたら、どうだろう? それに、工場を所有する企業と、労働者の間の関係として見られているが、共産党の地方幹部とかは、どういう役目を果たしているのか? こうした視点抜きに、中国のストの波の将来的な影響を理解しようとしても、詮無いことと思われる。

そのトヨタが、カリフォルニアの工場を閉鎖して、ケンタッキーだかどこだか、南部の州に工場を建設しようとしたところ、全米自動車労働者組合(だったか?)がトヨタに抗議を行ったという。組合によると、トヨタ団結権を蹂躙している、人権無視企業だということなのだが、下品で腐敗しており、しかも労働者に仕事を怠けさせることを本業と考えているようにしか見えないUAEに参加しない労働者の権利、というものも考慮に入れられてしかるべきだ。まあ、トヨタは大人なので、そんな(本当の)ことは言わないのだろうが。