不安な6月

月が変わったが、これで何かがよくなるという気はまったくしない。というか、私の場合は危機が発生することが、「膿を出す」ことになるので、むしろ「よいこと」なのだが。

昨日のアメリカはメモリアル・デイ(何の日だか、この年にいたるまで、知らずじまいだ)で市場もお休みだったので、ニュースはない。銀行がさらに何行か閉鎖されて今年の破綻銀行が80近くまでいったことくらいか。

ヤフー! ジャパンでウォールストリート・ジャーナルのよい記事が出ていたので、ピックアップ。

http://news.finance.yahoo.co.jp/detail/20100601-00000001-wsj-bus_all

それくらい、最初に気がついておけよ、という話である。まあ、だからといって、救済しないわけにもいかないのだろうが。PIGSは長期の爆弾であり、しかも時間の経過とともに悪化していく。そこまで考えると、ヨーロッパ経済はまだしも、ユーロの将来に関しては絶望的にならざるをえない。

参院選まで残すところ40日となったわけだが、政局は一気に流動化の度合いを強めたようだ。今日の朝刊に「首相退陣論が噴出」と一面トップで出ていた。公約を実現できない鳩山はひどい総理大臣だということになるのだろうが、彼に代わる人材(というのかな。「梱包材」とか、「緩衝材」、程度の価値しかないような感じだぞ、この場合の「人材」は)がいないのが民主党である。こちらもギリシャ問題におけるEUと同じく「そのくらい、最初に気がついておけよ」だ。だいたい、普天間移設を「最低でも県外」で進めるという公約そのものに無理があったということに気がつかないボンクラ揃いが民主党なのだ。視界ゼロ、なのである。今首相になっても、どのみち参院選では民主党は大敗となり、その責任をとらされるだけだ。だから、参院選大敗の責任を鳩山に取らせて、その後の、より安定した環境でよいポジションを求めるのがプロの政治家というものであろう。

現時点での選挙結果の予想は、7月には民主が大敗、首相は渡辺喜実、与謝野馨がパワー閣僚で実質首相、というものだ。あとは今の零細各政党の有象無象があちこちに入るが、これは大勢に影響がない。渡辺は鳩山由紀夫以上に将来も周囲も見えていないから、いよいよ不思議な展開になっていくのだろうな。管は、あいかわらずの副総理か。死ぬまで待合室にいた、みたいな話だ。小泉以後の首相は、誰も彼もが徳川慶喜将軍のように「大芝居(ⓒ司馬遼太郎『最後の将軍』)」を上演するために使い捨てられていくようにも見える。問題は、その「大芝居」の中身だが、こちらはまだはっきりとしていない。

週末はお茶を

昨日は東京を離れて、山中の亭にてお茶会。茶道、というやつである。
大正期に建てられた小ぶりな日本家屋の一室で、自然光のもと、凝ったお弁当をいただき、美しい道具で丁寧に建てられたお抹茶を喫する。細かい作法に誰もが翻弄されつつ、気の置けない友人たちなので好き勝手なことを言っては笑うということを繰り返しつつ、やがて話題は生臭い話から道具へと移り、作法通りに幕。帰途、坂道の古美術商に寄って、さらなる眼福となった。
でまあ、「お金と権力があったら侘び寂び」というのは、よくわかりました。話が生臭くなるほど、舞台設定は仙人の住まいのようでなくてはならない。権力者であるほど、作法でも何でもいいから、縛られたくなる。醜い現実と格闘するのには、物言わぬ道具たちの美が救いとなる。
戦前の財界人(いや、戦後では松下幸之助まではそうか)の多くが茶人となったのは、このあたりの機微を理解していたからであろう。
翻って、最近の若手経営者で没落を強いられた人たち − ホリエモングッドウィルコムスンの何某、村上ファンド、など、など、など − は、茶道などとは縁がなかった。いや、誰だって縁がないところから入っていくものだから、見向きもしなかった。スーパーカーにファッション・モデルに超豪華な社長室と、浪費の地獄道の入口あたりをうろうろするばかりだった。
成功をおさめるのに、最新のものに飛びつく素早さは確かに必要だろう。だが同時に、古くから愛されてきたものに対して、見向きもしないのであれば、必ず足元が危うくなる。そんなあたりまえの事を、ことさらに意識させてくれたのが、土曜日のお茶席だった。

回復は続かず

昨日の欧米市場の急回復だが、ダウは月末(アメリカは月曜日が祭日で市場もお休み)になってまたしても下げてしまった。1.19%減の10137ドルで5月を終えたわけである。イギリスのフィナンシャル・タイムズ指数は0.13%の下げ、ドイツ市場は0.15%の下げ、フランス市場は0.29%の下げだった。

昨日の欧州勢に関して言うと、凄まじいボラティリティーの挙句の微増・微減だから、不安定性の増大を感じさせる。それも道理で、格付け機関のフィッチが、スペインの国債を格下げしたそうだ。で、格下げをされて何をするかというと、みなさん緊縮である。ケインズ合成の誤謬」を地で行くような話だ。空売り規制もね。どうもヨーロッパは再起不能だという気がしてきた。人種差別の嵐が吹き荒れるのも、時間の問題か。けっきょくナチスにしても、10年間で2度も全財産が消滅する(第一次大戦時のハイパーインフレ/引き締めと、大不況)のを経験したドイツ市民が生み出したものだ。EU市民も、激しい金融危機にさらされれば、似たような行動に出るのだろう。

アメリカでは、iパッドの発売にともなって、アップル社の時価総額マイクロソフトのそれを抜いたことが話題になっている。ハードもソフトも、というアップルの方針が、ここへ来て奏功した、ということか。ただ、ここから先、今回の成功を再現するようなヒット製品を出すことは容易ではないだろう。とりあえず1990年代の遺恨を清算した、ということか。

ギリシャ危機がただちに日本でも発生するとは思わないが、それは日本の国債が国内で消化されているからだ。今年あたりからそれが怪しくなるという話もある。もっとも、私は今後数年のトレンドは株・不動産の「日本買い」だと思うので、そうなれば問題の表面化は先送りされる。だいたい5年後から、日本が諸外国に「国債を買ってください」をやって亡国への道を歩み出すのだろう。仮に実現しても消費税10%は焼け石に水、にしかならない。

福島瑞穂党首罷免。これで彼女は殉教者となった。どう見ても、彼女の言っていることのほうが筋が通っている。最初から無理そうなことを実現すると言って、いざ実現しないとなると「実現させろ」と迫る閣僚の首を切る。鳩山由紀夫は本当にいいことなしであるな。誰か身体を張って、「総理のおっしゃっていることは無理です」と伝えなかったわけで、民主党中枢は本当にどうしようもない。あるいは、伝えても強引に無能方向に突っ走っていったのだろうか(私はそう思っている)。ここからの展開はきわめて興味深い。特に、沖縄の世論である。鳩山は福島を切ることで、沖縄を切り捨てたのだ。戦後日本の沖縄に対する本音が、これで露わとなった。次の一手は沖縄から、である。

これはけっきょく、首相だけでは安保体制はどうにも変らないということでもある。両国外相・防衛相の合意枠組み「2+2」のほうで、粛々と事態は進行してしまったのだ。ここでも、憲法の事実上の書き替えが起きているのか。

アメリカの景気回復にとって最大の重しは、あるいはメキシコ湾の原油流出事故かもしれない。見るからに「アメリカの未来に漂う暗雲」なので、投資家心理に与える悪影響は相当なものだと思われる。一般的不安 Generalized Dread をもたらす、バブル末期に必ず現れる、市場とは関係のないバッド・ニューズというわけである。

急回復のタネ明かし

ダウが2.85%上昇して10259ドルまで上げた。加えてフィナンシャル・タイムズ指数が3.12%、ドイツ株が3.11%、フランス株が3.42%といった塩梅で、欧米では軒並み株価が急上昇している。原油は75ドル、金はわずかに下げたものの1211ドルという高水準だ。
これ、すべて中国が外貨準備の運用として購入したユーロ圏の国債を放出しないと保証したためだということである。これは、かねてから予想していた展開だ。クリントンガイトナーの訪中の際にでも話し合いがあったのだろうかね。
面白いのは、欧米とは政策目標の建前(環境、人権、あるいはいわゆるならず者国家に対するスタンスなど)が異なることの多い中国が、ここまでキー・プレイヤーになることに対する警戒心の薄さだ。本当に「G2」とか考えているのだろうか。ついでに言えば、中国経済にしても、決して安定しているわけではない。粗雑な制度でもって急成長を続ける巨大な発展途上国なのである。基本的にはキャッチアップで成長を続けるにもせよ、それは滑らかな過程ではありえないだろう。
そして、株価の急上昇とは対照的に、アメリカでは雇用の回復が予想を下回り、今年第1四半期の成長実績も従来考えられていたのよりも低い3%にとどまったということが明らかになっている。いわゆる回復の、実物面での弱さがどんどん露呈しつつあるのだ。

ヤフー! ジャパンでヒットが一つ。ニューズウィーク誌(日本語版か?)の記事のサマリーで、「ヨーロッパに台頭するネオ排外主義」について言及があったのである。先々、ヨーロッパが最終的に先進国でなくなることがあるとすると、この問題(イスラムユダヤ、アジア系の移民などをどう扱うか)だと思われることもあって、この記事引用はなかなか優れている。
こうした深層レポートは、やっぱり紙媒体向けだと思ってしまう私は、古いのだろうか。

日本に目を転じると、社民党福島瑞穂党首が普天間問題で一人頑張っている。政権としての公約を鳩山が破っているのだから、彼女の姿勢は正しいし、社民党の凋落が決定的になったのが村山富市政権の際に自衛隊も安保も認めたことが原因なのだから、政略的にも正しい。ところが、社民党の幹部や議員(何人いるんだか)は、選挙で民主党の協力が得られなくなるからと、及び腰のようだ。なんとも情けないが、この情けないほうがまあ、社会党改め社民党の本来の姿なのだろう。

それから、誰も気にしていなさそうなのが、日本創新党と立ち上がれ日本の提携話である。最終的には零細野党はくっつくと思うのだが、速く動いたほうが主導権をとれるのだから、この動きはそれなりに注目できる。渡辺喜実、みんなの党にいくら風が吹いても、政治家としての手腕は素人のそれに毛の生えた程度のものでしかないから、ぼやぼやしていると主導権を完全に握られてしまうだろう。まあ、どうでもよいのだが。だが、参院選の後で「渡辺首相、平沼議長、与謝野外相」なんていう顔ぶれになるような気もしてきたのは事実である。それで何かよくなるかは不明。

ダウ10000割れ(5月27日です!)

とうとうダウが10000ドルを割ってしまった。正確には9974ドルである。けっこうよいデータが出ているのに、この始末である。いっぽう、バーナンキは「中央銀行は政治から独立でなければいけない」などと宣うている。「利上げの邪魔をするな」というのだな。OECDも、欧米は年内に利上げしなければダメだと警告を発信。これはいよいよ、か。まあ、ここまで回復したこと事態、奇跡というより詐欺みたいなものだったのだから、2番底が来ても驚くべきではないのだろう。

イランがオバマに「今を逃がすと後悔するよ」と、和解を持ちかけている。オバマの心は揺れているだろう。ヒラリーがいない、この隙に、と思うのだが。

そのヒラリー、絶妙のタイミングで極東に。新たな北朝鮮危機である。とはいえ、中国としても戦争は望んでいないし、バン・キ・ムーン国連事務総長も、そのあたりはいっしょであろう。祖国が火の海になるのは、ぜひとも避けたいであろう。というわけで、非難声明でおしまいか。韓国の李大統領は「6ヶ国協議に戻らずとも、何か核を放棄するゼスチャーを」とまで言っている。こちらも雪解けは近いのか。ヒラリーは戦争したがっているみたいだけれどね。

ドイツは空売りの全面的規制に乗り出すようだ。投機資金が逃げ出すのだから、ユーロが下がるのも当然という気がする。とはいえ、空売り規制なんて、抜け穴は必ずあると思うのだが。投機批判よりは、ユーロの構造的な弱さを克服するほうに進むべきだろうに。

エコノミスト誌は「タイで内戦が起こる可能性は皆無ではない」と述べている。

バッシングにもめげず、トヨタは電気自動車のテスラと事業提携するようだ。『ジョジョの奇妙な冒険』の荒木飛呂彦がかつてその生涯をマンガ化(正確にはマンガの脚本を提供。マンガそのものは、『明楽と孫蔵』の森田信吾。『栄冠なき天才たち』シリーズの一話である)天才発明家ニコラ・テスラが、鈍感力の塊のようなトヨタと結びつく、この異様。世界史の円環が閉じたという趣きである。

いっぽう、日本では電気自動車の走行距離の新記録が出た。レース・サーキットで加速減速を少なくして走ったところ、1000キロ超までいけたとのこと。その前の記録も日本勢のもので、550キロほど。ものづくり大国は死なず、である。

週明け早々、ダウはマイナス

昨日月曜のダウは、1.24%減の10067ドルで終了。ヨーロッパでは、週末中に「今後数年間で100億ユーロの財政縮減を実行する」と誇らしげに発表したドイツがマイナスだった。イギリスもフランスも、微増である。原油は70ドルを少し割り込む水準となった。
興味深いのはドイツで、景気の先行きが悪い時に緊縮財政を発表している。大不況の時も、こんな展開だったような気がする。
「財政悪化を投資家が嫌っている」
「信頼を回復するのには緊縮財政だ」
というステップで、引き締めを実行、さらに事態を悪化させるというわけである。
アメリカにしても、ユーロ圏にしても、株価の下落についてコメントするべきことは特にない。バブル崩壊後の典型的な風景だというだけだ。

いっぽうの日本だが、普天間問題、どうなるのだろう。鳩山首相が陳謝したからと言って、ここまで期待を煽られた沖縄の人々はすごすごと Business as Usual に戻れるだろうか。
たぶん、無理だろう。だいたい、怖い人たちが亀井金融相の「基地の跡地はカジノで」発言で、走り出している。私としては、夏いっぱい、「基地出ていけ」運動が凄まじい盛り上がりを見せるものと予想している。ギリシャバンコクの比ではなくなる。誰もが賛成する「10年安保運動」の始まりだ。

米軍の基地駐留の最大の理由となっている北朝鮮問題だが、どういう展開を見せるのだろう。いちおう韓国は北を非難しているし、安保理提訴もすると言っているが、中国としては事を荒立てたくない、の一事に尽きるであろう。けっきょくは、膠着状態である。下手をすればイラン制裁でも中国が欧米と足並みをそろえることをやめるかもしれない。だいたい、ヒラリー長官、何を根拠に中国に対して居丈高なのだろう。彼女が極東をうろうろする間にも、ドルの価値は下がり続けているというのに……。

規制強化は金融引き締めである。

ユーロ圏ではドイツが一方的に空売り禁止を実行し、他にも「二度とこういうことが起こらないように」という理屈で規制強化が検討されている模様である。いっぽう、アメリカ議会ではけっこう強力な金融規制改革(強化)が決定した。
1929年の大恐慌の時も、銀行と証券を分けるグラス=スティーガル法などというものが制定されている。
金融市場の健全化ということでは、こうした措置は正しいのだろう。だが、問題はバブルがはじけた直後というのは、資産価値が下がり、価格が上昇する資産を担保として増殖していた信用通貨の裏づけが失われ、不良債権の大量発生、銀行の連鎖破綻が起こるという、非常事態なのである。
いっぽう、規制強化は「同じリスクに対して、貸したり投資したりできる資金の量が減る」というのがその本質なので、金融引き締めの一種として機能してしまう。超低金利と組み合わせると、ブレーキとアクセルを同時に踏み込むような感じになるわけである。
そんなことは、おそらく金融財政当局者は百も承知なのだろうが、どうにも止まらない。不健全な繁栄だったバブルを、世論は「良い時代」だと認識しており、それが崩壊したことこそが「正常化」ではなく「悪い事件」だと受け止めているからである。不健全なまでにゆるゆるの規制が産んだのが「良い時代」であり、規制を健全化すれば「良い時代」には戻れないという複雑(「不健全」が「良い」をもたらすという逆説)な理屈が、世論としてはどうにも受け入れがたい。そこで、金融界を罰するような法律を、とにもかくにも制定しないといけなくなるのである。もっとも、ユーロ圏を見ていると、このあたりの理屈が本当にわかっていないのではないかという気がしてくる。

今週からの相場はどうなるのだろう。ボラティリティーが上昇することだけは確かなような気がする。大きく下げれば買いが入るが、大きく上げることはなく、上がれば何かバッド・ニュースが飛び込むという通常通りのだらだらした下げ相場なのか、それとも暴落なのか。ただ、そろそろ暴落が起きるような気がしてならない(まあ、このブログを始めた時から、その気はしているわけだが)。

ところで、ヒラリーである。中国に行って人民元の切り上げを要請して、難色を示されているようだ。ユーロ危機のさなかに、輸出を不利にする決定を下すわけでもない。面白いのは、人民元切り上げが貿易上で日中の関係を「より公平にする」ものだとヒラリーが言っているという点である。
米中の間に、競争関係なんてあるのだろうか。廉価な工業製品、繊維製品の輸入のおかげでアメリカ企業が潤い、アメリカの貧困層の生活費が安く抑えられ、しかも中国側の黒字はアメリカ国債の購入に充てられてアメリカの金利を低く抑える効果を発揮する。いっぽう、アメリカがテレビやステレオを作るのをやめたのは、ずっと昔のことで、中国との間にろくろく競争関係など存在しないではないか。
と、まあ、中国側は呆れているのだろう。じっさい、アメリカ側があまりに強く要求するので、人民元切り上げをするとアメリカ政府の言いなりになったように見えてしまう − だからこそ、なかなか切り上げられないというロジックもあるようである。

北朝鮮の魚雷による韓国艦の撃沈事件だが、ニューヨーク・タイムズ紙が「状況証拠と政治情勢から判断して、北朝鮮の犯行」だと分析している由。しかし、「状況」も「政治情勢」も判然としていないのが北朝鮮ではないのか。私としては、ここでトラブルを起こして北朝鮮の利益になるとは、どうしても考えにくい。むしろ、中国・韓国・日本との和解が近いのを見て、強硬派(つまりは、和解で失業する)の軍人が勝手に動いたと考えるのが、最も筋が通っているように思う。
この魚雷問題、日本では誰か騒いでいないのだろうか。テレビを見ないので、そのあたりはよくわからない。