ダウ大幅下げ、ハンガリー、トルコ……

米3日は雇用統計の改善が乏しいのを見て、ダウが300以上下げて、またしても1万ドルを割ってしまった。他の指数も大幅下げである。しかも、PIGS騒ぎが一段落したと思ったらば、今度はハンガリーだ。日頃お世話になっている(って、翻訳家として、売れる本の原著者にお世話になっているという意味なのだが)ジョージ・ソロスの故国ではないか。ここからはもう、悪化の一途ではないか。しかもG20では、財政赤字の削減を宣言しているそうで、景気改善は見込み薄である。読者のみなさん、シートベルトを締めなおしてください。

ハンガリー危機に限らず、PIGS騒ぎが進行している間、東ヨーロッパ諸国の経済問題は、どこかに隠れてしまっていた感じだった。こちらには、まだ通貨切り下げという選択肢が許されているが、それでも民間、国を問わず、ユーロ建ての債務は多かろう。ハンガリーの新政権は、前政権が「借金隠し」をしていたと主張しているようだが、こちらは金融技法についてPIGS諸国以上に疎い、旧社会主義国である。事実とすれば、相当に深刻だと思われる。ここから一挙に、東ヨーロッパが反ユダヤ主義一色に染まっても、私は驚かない。すでにそういう傾向はあるようなのだ。ソ連占領時代を通じて、東ヨーロッパ諸国は第二次大戦前のそれぞれの国の経験を反省することがなく、ソ連崩壊後は被害者という位置づけである。今になって、いきなり第二次大戦前のヨーロッパから反ユダヤ主義の亡霊が頭をもたげても、ある意味不思議ではない。

そんな東ヨーロッパ情勢にまで気が回らないほど慌てていると思われるのが、イスラエルである。パレスチナ支援団体の舟艇(ピースボート?)をイスラエルの特殊部隊が公海上で攻撃して死者を10人ほど出してしまった、例の事件だ。被害者の多くがトルコ人だということで、トルコ政府が怒りの声明を発し、冷戦時代から密接だったイスラエルとの関係を見直すと言っているのだ。「あんな声明を出してもイスラエルとトルコの関係は密だから、ただのジェスチャーだろう」と中東に詳しい人たちは誰しも思っていたことだろうが、何かもっと根の深い変化が起きているようである。先にイランの核問題でブラジルとともに国際社会との橋渡しを行い、シリアとも関係改善の動きを見せているトルコ。いよいよ世俗主義を捨てて、イスラムの大国として復活するということか。EU加盟が進まなかったからだという分析もあるが、むしろ国際社会におけるヨーロッパの比重が軽くなり続けて、ついにリーマン・ショックから今回のPIGS騒ぎを経て「組むに値しない相手」だとトルコに見抜かれたというのが、ことの本質だろう。これでトルコがギリシャに対してしたように、東ヨーロッパ諸国に支援の手を差し伸べたら、どうなるのだろうね。黒海がトルコの内海になるような気がしてきた。世界史ファンにとっては、なかなか感動的な展開であるよ。

もう一つおかしかったのが、シンガポールの国際問題・安全保障研究所で開かれたシンポジウムで、ゲイツ米国防長官が「北朝鮮を罰するべきだ」と発言したところ、中国の代表が「イスラエルの公海上での民間人殺傷は不問に付して、北朝鮮の軍事行動は罰するというのは、偽善である」と切り返している。もちろんゲイツは「事の性質が、その二つの事件ではまるで異っている」と反論しているが、内心では一本とられたと思っていることだろう。ちなみに、北朝鮮に対する「罰」が具体的に何をさすかについて、ゲイツは何も明らかにしていない。そりゃ、そうだろう。軍事攻撃をすれば、中国と全面戦争である。経済制裁は、どうせ中国が真面目に執行しない。だいたい、あまりに強硬な措置は国連安保理で中国が拒否権を発動してしまう。しかも、ここで北朝鮮問題でゴリ押しを続ければ、中国とイラン、トルコの接近という結果になりかねない。この強力なトリオが誕生すれば、中央アジアの「なんとかスタン」は、みなドミノ倒しのようにしてそちらに参加するのではないか。そうなれば、中国/北朝鮮製のミサイルは、飛行機を使わないで、シリアまで運搬できてしまう。そういえば、ロシアがコンテナにすっぽり収まる地対空ミサイル発射装置を開発していたような……大型トラックにも、すっぽり収まるのだろうな。

そうそう。管直人が日本の首相になった。それで参院選の劣勢を挽回できるとも思えない。ついでにいえば、厚生大臣として薬害エイズ血清汚染問題の監督責任ということで、訴訟団の原告たちに謝罪して男を上げた管である。ここで沖縄の民意を完全に踏みにじってしまえば、厚生大臣としての業績も水泡と帰してしまう。どう出るかが楽しみだ(参院選後に選挙の敗北の責任をとって辞任、という流れなのだろうが。というか、そのための登板であろう。本人がどう思っているかはしらないが)。

で、首相の座を去った鳩山だが、この唐突な辞め方は彼が官房副長官として初めて政界の表舞台に登場した細川内閣の終わり方にそっくりである。あの時は、まあ、小沢一郎が敵、という位置づけだったのだが、今回は唯一首相を支えている小沢(小沢が支えているというか、彼に支えられざるを得ない位置に、わざわざ鳩山が好きこんで立っている、というのが本当であろう)と心中である。ということは、管直人は細川の後継者の羽田孜(まだ政界にいる、というのが驚き)と同じような超短命政権で終わるのだろう。そして、その後には政権交代が待っている……羽田の次は村山富市で、村山級に首相になる能力、訓練を欠いている……といえば、やはり渡辺喜美か。

鳩山首相に対する評価は、「新潮45」の先月に書いた「戦略的無能」という評価のままです。わざとだったんです、あれは。ただ、鳩山由紀夫のキャラクターだと、とても芝居には見えない。適材適所の、ツボにはまった芝居の恐ろしさよ。

トンネルを抜けると、由紀夫、邦夫だった。そのトンネルは、鳩山という山の横腹にうがたれているのだろうか。