夏休みが終わった

久しぶりにこのページを開けてびっくりした。二ヶ月近くお休みしていたのだ。某社の新書で経済本を執筆中で、そちらのネタと頭の中でごちゃごちゃになるのを避けたかったのだろうか。
で、例によって思いつくままに。


・ユーロ危機の本質

このブログで「ユーロ圏の金準備はアメリカの10倍」みたいな話を書いたが、このバックアップのおかげでユーロ圏には「危機を煽ってユーロ安を演出し、ユーロ安が手に負えなくなったら金本位制復帰の可能性をほのめかしてユーロ高に振れさせる」という芸当が可能なのである。ギリシャ危機の際に、ドイツ銀行のアッカーマン会長が「どうせギリシャはこの金(緊急融資)が返せない」などと身も蓋もない発言をしたのも、ユーロの安値誘導だったと見ると、わかりやすい。そしてユーロが大幅に下げた現在、ドイツ経済は絶好調だ。


・管・小沢抗争の行方

管が日韓併合に関する「管談話」を行った時点で、管の長期政権が可能かという気もしたのだが、どうもそうでもないようだ。小沢は別に総理大臣になるつもりはなく(なった途端に資金問題で質問攻めにあって陥落するのが目に見えている)、世間の悪評も気にしていない。いや、気にしてはいるかもしれないが、そのようなものに動かされることはない。代表選で勝てば、自分が総理大臣になるよりも反対派を追い出すほうに専念するだろう。そして渡辺喜美を総理に立て、自民、公明と大連立を組むのである。負ければさっさと子分を連れて出ていくだろう。そして自民、公明と合流して谷垣禎一を総理に立てるのである。菅は先輩の長州人総理、安倍晋三と同じく、意に反したアジア外交(安倍は総理就任早々に、大方の予想を裏切って訪中)を展開した後に、使い捨てられる運命にあるようである(ただ、管が談話について反対しているとは思わない。単に、彼の背景からいって、歴史認識問題にはあまり関心がなさそうだというだけである)。


円高株安

またか、という感じである。
円高に振れるのは、日本の企業に輸出競争力があるからだが、日本の製造業が対米で全般的に競争力があり、しかもアメリカ市場で利潤のかなりの部分を稼いでいる(それで「円高を何とかしろ」と大騒ぎするわけである)のだとすると、それはドルが過大評価されているだけの話。円安に振れて企業の利潤が安定しても、すぐに企業業績の改善と輸出の伸長から円高基調に戻すだけのことだ。
しかもドルを外貨準備として溜め込むことのメリットは、かなり怪しい。上述のごとく、過大評価されている通貨だからである。まあ、このシーソーみたいな動きは、ドルが全面崩壊する(遅くとも10年後)まで続くのだろうな。


・年末の三大価格

金、原油、ドルの相場は、ここから先、年末までどう動くだろうか?
原油は、ゆっくりとした下降を始めている。アメリカの不況が本格化するとともに、バレル40ドルくらいまで急激に下げるだろう。これは少し前にこのブログで述べた見通しのままである。昨日のYahoo! Finance (本国版)では、投機需要がなければ原油はバレル20ドル以下、という談話が載っていた。
いっぽうの金だが、こちらはしぶとい。ただ、アメリカ経済の減速がはっきりしてきた以上、オンス1300ドル超えはないであろう(円建てだとかなり下げていることになる)。「年末にオンス400ドル」というのが当初の予想だったが、その水準まで下げるのは来年の春くらいになりそうである。まあ、これはただの勘。
そして、円・ドル。これがいちばん微妙だ。
笑ってしまったのは、危機対策の金融緩和、財政出動その他でアメリカの消費は回復したものの、消費者はもっぱら輸入品ばかり買っていたという話である。アメリカ企業はアメリカ人を採用しないし、アメリカの消費者はアメリカ製品を買わない。どうなっているのだ。
ということで、アメリカ経済の後退はアメリカの消費を減らし、アメリカの輸入を減らす、と。不況が原油安を招くというのも、アメリカの経常収支赤字を減らすもとだ。だから、ドル安は今が底で、年末には1ドル95円くらいまで戻していると思う。


・ヌリエル・ルビーニ『Crisis Economics』を読み始める。ルビーニのどぎついキャラクターからすると、意外なほどに穏当。
ルビーニもそうだし、ソロスもそうなのだが、バブル分析の問題は、バブルの生成崩壊の過程の描写に力を入れすぎてしまうということだ。毎回のように馬鹿なことが起こるのは確かに面白く、繰り返されるパターンを追いかけていくだけで賢くなったような気持ちになれるのだから、無理もないのだが。
ちなみに、私のバブル理解は『バブルの興亡』に出てくる「政治(特に対外政策)的な理由による過剰な金融緩和 + 技術進歩と社会進歩についての強い期待」に加えて、主に小国の場合だが「大量の資金の急激な流入」も重要だというもの。チューリップ・バブルは後者の例である。ほぼ同時期に起きたイギリスの「南海泡沫事件」とフランスの「ジョン・ローのバブル」の場合、前者が資金流入で、後者が紙幣発行という形での金融緩和だった。ただし、フランスの金融緩和の原因は、財政破綻である。日本にバブルが再度起こる場合も、財政破綻によるものである可能性は、今やきわめて高くなっている。