規制強化は金融引き締めである。

ユーロ圏ではドイツが一方的に空売り禁止を実行し、他にも「二度とこういうことが起こらないように」という理屈で規制強化が検討されている模様である。いっぽう、アメリカ議会ではけっこう強力な金融規制改革(強化)が決定した。
1929年の大恐慌の時も、銀行と証券を分けるグラス=スティーガル法などというものが制定されている。
金融市場の健全化ということでは、こうした措置は正しいのだろう。だが、問題はバブルがはじけた直後というのは、資産価値が下がり、価格が上昇する資産を担保として増殖していた信用通貨の裏づけが失われ、不良債権の大量発生、銀行の連鎖破綻が起こるという、非常事態なのである。
いっぽう、規制強化は「同じリスクに対して、貸したり投資したりできる資金の量が減る」というのがその本質なので、金融引き締めの一種として機能してしまう。超低金利と組み合わせると、ブレーキとアクセルを同時に踏み込むような感じになるわけである。
そんなことは、おそらく金融財政当局者は百も承知なのだろうが、どうにも止まらない。不健全な繁栄だったバブルを、世論は「良い時代」だと認識しており、それが崩壊したことこそが「正常化」ではなく「悪い事件」だと受け止めているからである。不健全なまでにゆるゆるの規制が産んだのが「良い時代」であり、規制を健全化すれば「良い時代」には戻れないという複雑(「不健全」が「良い」をもたらすという逆説)な理屈が、世論としてはどうにも受け入れがたい。そこで、金融界を罰するような法律を、とにもかくにも制定しないといけなくなるのである。もっとも、ユーロ圏を見ていると、このあたりの理屈が本当にわかっていないのではないかという気がしてくる。

今週からの相場はどうなるのだろう。ボラティリティーが上昇することだけは確かなような気がする。大きく下げれば買いが入るが、大きく上げることはなく、上がれば何かバッド・ニュースが飛び込むという通常通りのだらだらした下げ相場なのか、それとも暴落なのか。ただ、そろそろ暴落が起きるような気がしてならない(まあ、このブログを始めた時から、その気はしているわけだが)。

ところで、ヒラリーである。中国に行って人民元の切り上げを要請して、難色を示されているようだ。ユーロ危機のさなかに、輸出を不利にする決定を下すわけでもない。面白いのは、人民元切り上げが貿易上で日中の関係を「より公平にする」ものだとヒラリーが言っているという点である。
米中の間に、競争関係なんてあるのだろうか。廉価な工業製品、繊維製品の輸入のおかげでアメリカ企業が潤い、アメリカの貧困層の生活費が安く抑えられ、しかも中国側の黒字はアメリカ国債の購入に充てられてアメリカの金利を低く抑える効果を発揮する。いっぽう、アメリカがテレビやステレオを作るのをやめたのは、ずっと昔のことで、中国との間にろくろく競争関係など存在しないではないか。
と、まあ、中国側は呆れているのだろう。じっさい、アメリカ側があまりに強く要求するので、人民元切り上げをするとアメリカ政府の言いなりになったように見えてしまう − だからこそ、なかなか切り上げられないというロジックもあるようである。

北朝鮮の魚雷による韓国艦の撃沈事件だが、ニューヨーク・タイムズ紙が「状況証拠と政治情勢から判断して、北朝鮮の犯行」だと分析している由。しかし、「状況」も「政治情勢」も判然としていないのが北朝鮮ではないのか。私としては、ここでトラブルを起こして北朝鮮の利益になるとは、どうしても考えにくい。むしろ、中国・韓国・日本との和解が近いのを見て、強硬派(つまりは、和解で失業する)の軍人が勝手に動いたと考えるのが、最も筋が通っているように思う。
この魚雷問題、日本では誰か騒いでいないのだろうか。テレビを見ないので、そのあたりはよくわからない。