いよいよ始まったか、2番底

昨日のダウはなんとか前日比1.25%+の10103ドルで終わった。朝には急上昇、その後前日比割れと、激しいボラティリティーを発揮したうえでのことで、不安が募っているのだろう。
主たる原因はEU危機だとされるが、アメリカ経済そのものもかなりの問題を抱えている。さまざまな指標の中で、雇用関係がけっこう大きく悪化したようだし、金融機関の大量救済による景気回復が株価上昇から救済コストを下げるというロジックも、ここ数日の株価下落によって打ち砕かれてしまった。銀行破綻は加速しており、現在、5月末の時点で73行を数えている。年末には史上最高記録を更新するのだろう。加えて、金融規制強化だ。これで金融機関の収益は20%も減ると言われている。もともとが金融機関の過剰なリスク・テークがもととなって起きたバブル景気なのだから、そこへの回復はこれでは不可能である。それで「4月のピークからダウは一割下げている」とか奉じているのだから、何をかいわんや。

では、EUが健全かというと、そんなことはない。こちらは財政引き締めと規制強化を同時に進めているのだ。バブルの再発を完全になくそうというのである。だが、それだとバブルでもって成り立っていたここ数年の景況を再現することは不可能になってしまう。バブルだからこそ、ユーロが強く、ユーロ圏が好景気だったのだ。

ところでフィナンシャル・タイムズのコラムニスト、マーティン・ウォルフが、ユーロ危機の本質を見事にまとめている。ドイツ人が優れた工業製品で貿易黒字を稼ぎだし、しかし節約生活に慣れているドイツ人のこととて、ろくすっぽ消費せず、ドイツの金融界としてはドイツ国内の過剰な貯蓄をユーロ圏内の貿易赤字国に融資したり、アメリカのサブプライム証券に投資したりといった運用しかできなかったことから来る不均衡が根っこにあるというのだ。言うまでもなく、これは日中とアメリカの関係でもある。巨大な貯蓄の塊に、どうやってそれなりの運用益をもたらすかというのは、管理通貨制度のもとで高齢化(高貯蓄化)を遂げてしまった先進国がどこも共通して抱えている問題であり、どこも上手な解決策を見出していない。それはそうだろう。貯蓄が増えれば、需給法則からいってどうしても利回りは下がってしまう。昨今の金融技術革新は、マージナルでハイリスクな投資案件、融資案件のリスクを下げること、利回りを上げることに成功したように見せかけていたのである。根っこにあるのは金融技術革新ではなく、貯蓄過剰なのだ。だが、そのことをはっきり言えば、「誰もが豊かで幸せになれる」という戦後先進国の社会契約(新興国の社会契約でもあるのかも)が否定されてしまう。あるいは少なくとも、大金持ちと大衆浮遊社会の併存という建前が維持不可能になってしまう。それでまあ、不況の入り口で規制を強化して、不況を本格到来させてしまうのだな。
ちなみに、アメリカと日中では、債務国のアメリカが日本に対して政治的に強く、中国に対してもまあまあ強いからバランスが何とかとれているのだが(それがよいことかどうかは別である)、ドイツの場合、他のユーロ圏諸国が束になってもかなわないようなところがある。フランスがぎゃんぎゃん騒ぐと、うんざりして譲歩するくらいなのだ。それで今回も、一方的な空売り規制で周辺諸国を動揺させているわけである。もっとも、こちらもオランダが追随した模様。

ヒラリー国務長官、来りて去る。3時間の東京滞在で、3日だか4日だか中国にはとどまる由。日本側としては、ここでヒラリー長官に激怒してほしいところだろうが、日本はもはや相手にされてさえいない模様。岡田外務大臣のヘアスタイル(というか、その欠如)あたりがいかんのだろうか。
という冗談はさておき、ヒラリーの露骨で幼稚な振る舞いに、アメリカ人の限界を見る思いである。アクション映画だと、そろそろ主人公が罠に気がつくタイミングなのだが。『エイリアン2』で、戦闘のプロのはずの海兵隊があっという間に全滅して、戦闘の素人だがエイリアンを熟知する船舶労働者のリプリーが指揮をとる、あたりの対比でいくと、ヒラリーはまさしく全滅していった海兵隊のほうなのだ。
アメリカは中国を戦略的パートナーとして見ているわけだが(これには長い前史がある)、中国から見れば、やはりアメリカは脅威以外の何ものでもないだろう。中国国内の人権問題にしても、行政の末端まで真面目な人材が確保できないという発展途上国の問題として、恥ずかしいからそっとしておいてほしいところを、アメリカの人権活動家が大騒ぎして中国政府の面子を丸つぶれにする。チベット問題にしても、戦略的なロケーションで国土の分裂を画策する少数民族アメリカが援助している(アメリカの活動家の中にはCIAなり軍なりの工作員がいると、中国側は見るだろう)としか見えないはずなのだ。これでパートナーになりましょうなどと言って手を差し伸べたところで、はいそうですかと奥座敷まで入れてくれると考えるのは、どうかしている。だが、そうは考えないのがアメリカ人である。しかも、ヒラリーは自分のほうが大統領に適任だと考えている(ほんとうはそんなことは全然ないのだが)プライドの高い人物で、こういう人間を転がすのが、中国は実に上手である。キッシンジャーしかり、ブレジンスキーしかり。逆に、ウォレン・クリストファーやサイラス・ヴァンスのような石部金吉は、びくともしなくて、実に交渉しにくかったということだ。中国との交渉も、老獪なバイデンに任せるべきなのだが、高齢の副大統領に外交をすべてまかせるというわけにもいかんのだろうな。

日本のGDPは好調だとのこと。

ここいらへんで、中国の景気が気になってくる。たとえば上海の株式市場で調整が起きたからといって、内陸部のきわめてプリミティヴな経済発展に影響はあるのだろうか? 私は、ないと思う。だが、上海株が不調とか暴落となれば、それがきっかけで世界全体で株価は暴落し、こちらは本格的な不況に突入してしまう危険性が高い。先進国の投資家には、もはや自分たちの過去である新興国の本質が見えないのだ。