ユーロ悲観論

金曜に、ダウはまたしても1.5%下げて、10620ドルで週を終えた。週の初めよりは高いものの、「11000ドルの壁」にぶつかり続けている、といった感じだ。
面白いのが、金と原油の乖離が続いているということ。原油はすでに71.6ドルまで下げているのに、金は12100ドルで張り付いたままである(Yahoo! finance より)。何が起きているのやら。通貨不安はあるものの、インフレ懸念が弱いという、きわめて珍しい事態に、市場が戸惑っているということか。

ユーロに対する悲観論が凄まじい。歴史的瞬間という感じである。
ポール・ボルカー「ユーロ圏には解体の危険性がある。それが現実化したということだ。規律がまったくないということがわかった」
トリシェ欧州中銀総裁「今やヨーロッパは第二次大戦以後最悪の事態のさ中にある」
ドイツ銀行会長「ギリシャは今回の融資分を、ちゃんと返済できないのではないか」
サルコジ仏大統領「ドイツがあまりに非協力的であり続ける場合には、フランスとしてはユーロ脱退を検討せざるをえない」
てな感じなのだ、金曜日以来。
ツイッター時代ならではの「つぶやき」の嵐。
ただ、ここまで悲観論が根強いと、私としては楽観的にならざるを得ない。
楽観論の根拠はただ一つ、ユーロ圏が全体としては貿易黒字を計上し続けているということだ。日本や中国ほど突出してはいないが、アメリカみたいに「赤字と消費で世界をけん引」なんてバカなことは考えていない。あるいはイギリスみたいに「金融センターの信用力で分不相応の借金生活」とも。要は、堅実なのである。堅実に運営してきたからうまく行っていたように見えたのがバブルだったと暴露されて、戸惑っているのである。そしてアメリカやイギリスと違って、堅実な分、頭も固い。それで脱出口が見えてこないのである。
だが、ユーロが消滅すれば、経済的なダメージは凄まじいものになるだろうし、それ以上に政治的なショックがとんでもないものととなってしまう。今の体制のままで残れる国が、いくつあることか。ソ連崩壊みたいな悲惨な結果になるのではないか。
ユーロ圏の首脳たちも、そう考えていることだろう。だから一週間もすると、何かしら智恵が出てくるのではないか。
いや、実は解決に向けた動きが、すでに出てきている。トルコの政財界の指導者100名あまりがアテネ入りしているのだ。この危機に際して、トルコの余剰資金でアテネを何とかする、つまりは、トルコによる事実上のギリシャ買収である。実現すれば、トルコは金の力でもって約200年ぶりにギリシャを取り戻すことになる(オスマン・トルコからのギリシャの独立は、1830年くらい)。中国がアヘン戦争以来の屈辱を払しょくしたのに続いて、トルコ帝国も復活しつつある、ということか。ドイツにしてみれば、裏口からトルコの事実上のEU加盟を実現もできるわけで、これは悪くない。
中国も、ロシアやアメリカとの対抗上、ヨーロッパにはある程度強いままでいてほしいから、何かしら条件をつけてヨーロッパ救済に動く可能性がなくはない。このブログでは、前にもその可能性について言及している。まあ、中国としては国内の景気過熱など、難問が山積しているだろうから、ここは先進国を助ける暇などないのだろうが、この難所を切り抜ければユーロのほうがドルよりも長期の見通しはよい(あるいは、どちらも同程度に悪い)のだから、その可能性を真剣に検討するべきである。人権問題その他、国際社会の中国に対する批判を封じることにもなるし。
そしてユーロ圏では、かつてのブレトン=ウッズ体制におけるように、ユーロ圏内での為替変更に関する規約を盛り込み、予算の決定権は国ごととするにもせよ、銀行検査、会計検査、経済統計はヨーロッパ全体で一元化する、という改革を導入する。さらに、各国の金備蓄も一元化する。こうした改革を経れば、ユーロは復活するのではないかな?
ただし、フランスのサルコジ大統領の発言を見てもわかるように、ユーロ/ヨーロッパを救うという問題と、主導権を独仏のいずれがとるのかという問題がぶつかりあっているという側面もある。サルコジの動きは読みにくいので(今回の発言も、正直言って驚き。駆け引きだとしても、あまりにリスクが高すぎる)、けっきょく瓦解してしまう可能性も決して低くはない。五分五分なのである。

ここで目を転じて、アメリカ方面へ。
Yahoo! 本国版のファイナンスのページのトップ・ストーリーが、なぜかテレビドラマ「Law and Order」を褒める記事だった。あれは州の検察の物語か、警察か。何かの間違いでないとすると、ウォール街で大量逮捕があるという前兆なのだろうな。
実は大不況の時も、「Bankers' Strike」という話があって、金融緩和を行っても資金が動かないのは、金融界がルーズベルトの改革政治を嫌っているから、という論調だった。じっさいには、景気の見通しが悪いところへもってきて、規制強化でもって融資がしづらくなっていただけなのだが。
ただ、今回は本当に「Hedgefund Managers' Strike」みたいな展開になるかもしれない。ドルの投げ売り、アメリカからの投機資金の流出である。そこらあたりのドル/アメリカ経済の危うさを読み説けば、ユーロ復活は十分に目があるのだが。
アメリカの変てこさをもう一つ。日本でリニアモーターカーに試乗して「速い! 速い!」と無邪気に喜んでいたラフード米運輸長官は、その後中国も訪問。つまりは、グリーン・ニューディールの一環としての高速鉄道網建設のための視察旅行だったのだ。
そして、記者会見では「日本や中国、カナダなどからは鉄道や車両を買うことはない。技術と知識だけを導入する」とラフード長官、発言している。「アメリカの熟練した労働者が作る」のだと。
これは……寝言だな。まあ、中西部出身なので、そんなことを言いたくなるのはよくわかるのだが、今のアメリカの熟練労働者って、軍需とボーイング以外には、いないのではないだろうか。ニューヨークの地下鉄車両を更新する際にも、国内ではどこも使っていなくて、カナダと日本に発注しているのだ。だいたい、アメリカに本当に競争力のある熟練労働者が大勢いて、生産技術があるのであれば、ビッグ3があそこまでがたがたになることは、なかっただろう。

ということで、ユーロ圏の行き過ぎた悲観、アメリカの行き過ぎた楽観でもって、先週は幕となったのでした。