(一日おいて)不安の中の回復

5月12日に大幅に下げた後で、昨日のダウは順調な回復を示した。前日比で1.38%もしくは149ドル上昇して、10897ドルまで戻している。だが、原油価格は75ドル台にとどまり、いっぽう金は1210ドルと、相当な高水準だ。日本円では27年ぶりの高値だから、金だけに限って見れば、プラザ合意以後の円高をすべて帳消しにする勢いということになる。
もちろん、一日だけの値動きで判断をくだすことはできないが、要は先々の不景気を見越して原油は上がらず、ドル(財政赤字を更新)もユーロ(崩壊一歩手前で1兆ドル分をジャンク国債を担保に増刷)も通貨としての先行きが不安ということで金が上がる、ということだろう。金が下がりはじめると、本格的に不況突入である。何度も言うが、年末にはバレル40ドル、金オンス500ドルというのが私の予想。もっとも、数字にさしたる根拠はない。勘である。
二日前のブログを見直していたら、4兆ドルという数字が出てきた。4兆円か400億ユーロの間違いだな、これは。弁解めいたことを付け加えると、ユーロ危機のさなかでは色々な巨大な金額が次々に登場していたので、混乱してしまったのだろう。経済ネタでは数字には気をつけなくてはいけないのにね。
ギリシャではストライキがあったが、2000人の夜間ストと、小規模なものだった模様。だが、ギリシャ経済はすでに縮小を始めている。EU/IMFから救済資金が振り込まれる予定が5月18日で、5月20日に大規模なデモがアテネで予定されているという話だが、どっちに振れるのか?
ギリシャの次のデモがあまりに大規模でまた人死にが出たりすると、せっかく緊縮路線に踏み出したスペインなんかも、逡巡するのだろう。
いずれにせよ、「危機克服と金融緩和 → バブル → インフレ」という経路をたどるにせよ、「通貨価値不安 → インフレ」という経路をたどるにせよ、「全ヨーロッパにドイツ並みの通貨規律を」というコンセプトで始まったマルクは、「全ヨーロッパにギリシャ並みの無秩序を」という結果をもたらしそうである。
いっぽう、アメリカの金融規制改革に目を転じると、ゴールドマンのみならず、超名門のモルガン・スタンレーにも司直の手が入った模様。これは本格的な戦いになって来た。まあ、確かに「ゴールドマンだけ」というのは不可能なのだろうが。
日本では、小沢一郎の再起訴。検察審査会に対する不満を、ウェブの各所で見かける。それはそうだろう。だが、検察としては小沢逮捕を7月の参院選後にもちこすとすると、5月末の普天間のデッドラインに間に合わない。それまでに鳩山を翻心させなくてはならず、それには小沢をとりのけなくてはならない……となると、あとは極端な手段しか残されていないことになるのだが、実はそれこそ小沢、鳩山(というか、その背後のシナリオライター)の狙っている線なのではないだろうか。
国民世論は、途端に小鳩路線(Long and Winding Road)に対して、同情的になってしまうだろうからである。

ここで一冊、最近の読書を紹介すると、

『貧乏という生き方』  川上卓也   WAVE出版

現代の純文学はノンフィクションにあり、という私の感じていたことを確認してくれる一冊でもある。著者の「貧乏」は、自ら茨城県の僻地のボロやに引っ越し、貨幣経済の周縁部で昭和30年代そのものの生活をするというもので、きわめて前向きである。干し肉もスープストックも自ら作り、テレビは捨て、服もあまり持たない。安酒(サントリー「レッド」とか「トリス」)で心地よく酔い、僻地ならではの豊かな自然に共感する。そして現代日本文明に対して大真面目に悲嘆し、怒る。これぞ、これぞ、純文学の醍醐味ではないか。しかも、文章はかなり上手だし、けっこう笑えもする。そして、読後感のすがすがしいことと言ったら。
おかしいのは、『28歳のリアル』とか、思いっきり現代日本時代精神を反映した浮薄な人生「戦略」本が刊行物の中心をなすWAVE出版から出ていることだろうか。