蓋を開けたら一兆ドル

EUのユーロ防衛基金は、総額が1兆ドルになることが発表された。ざっと90兆円で、これならPIGSの財政赤字をまるまる飲み込むことができる。英、独、仏の株式市場ではこの発表が好感されて、たちまち株価が急上昇している。
だが、これはけっきょくギリシャポルトガルなどの「ジャンク国債」を欧州中央銀行が引き受けるということで、実質的にはユーロの切り下げだろう。だいたい、ギリシャでは今にも大規模なデモが始まりそうな気配なわけで(最終的には内戦になると私は見ている)、ジャンク国債は最初からジャンクであることがはっきりしているのである。
そこまでを読みきったせいか、ダウの反応は今一つぱっとしない。朝がたに400ドル近く上昇したものの、その後一日中横ばいが続き、けっきょく最終的には前日(先週)比で404.7ドル、3.90%上昇の10785ドルで落ち着いている。全般的な不安に取りつかれているという私の読みは、正しいようだ。まあ、明日になればすべては明らかになるのだろうが。
原油価格も上げたが、微増にとどまったようである。全般的な低落局面の中で破局がとりあえず回避されたということか。

日本では面白いのは、やはり政治である。「ルース米大使が小沢一郎に会った」「小沢一郎が鳩山総理を叱った」などという記事がちらほらと見受けられるのだが、
(1)もしも鳩山の迷走が彼の独断によるものであれば、小沢が何を言っても無駄である。
(2)安保関連の決定は重要なものだから、主要閣僚と党三役で事前にどう行動するかを決めているはずである。
この2点が誰の念頭からも欠け落ちているように思われる。小沢といい、鳩山といい、キャラの問題が誇張されていて、政治家として誰も語らなくなっているようだ。そして、そうしたマスコミ発のノイズが乱反射して、誰も冷静に考えられなくなっている。事態は、
(1)完全な混乱状態で、誰に何を言っても無駄
であるか、
(2)予定通りの混乱状態で、誰に何を言っても変わらない
でしかないではないか。
だがまあ、この調子で小沢待望論と小沢怪物論に終始するのだろうな、マスコミの論調は。

そうそう。日本でもう一つ重要なのが、中国人観光客へのビザ発給条件の緩和である。今のところは富裕層(年収330万円兆)に限定されているのを、年収4、50万円クラスにまで広げるのだとか。すると、ビザの発給資格を持つことになる中国人は4億人まで広がるということである。
中国人富裕層の需要で日本各地の景気が維持されているという報道は、確かにけっこう出ているのだが、この決断は変だと思う。景気を支えられるほどの消費力があるのは、やって来るのが富裕層だからで、すそ野をいくら広げても所得と資産が下がっていくだけだから、日本の景気にはあまり関係がないではないか。
これはむしろ、非合法な低賃金労働を呼び寄せる政策ではないのかと勘繰りたくなる。というか、そのような結果しか想像できない。年収40万円の中国人の目に、一人頭GDPが300万円の日本が、どう映ることか。これは日本が好きとか嫌いという話ではない。観光ビザでやって来て、有効期間(一月か、二週間か?)の間、働いただけで、半年分の収入が稼げてしまうのである。いや、十分に信頼できる保護組織(つまりはマフィア)がついているのであれば、そのまま不法滞在に切り替えるだろう。4億人の1%が動いただけで、日本の労働力不足は解消されてしまう。
しかし、それで数年して巨大な、それこそかつての香港の九龍城みたいなスラムが発生した − つまりは、今回の改革が失敗だと判明した段階で、中国に「ビザの発給条件を再度厳格化したいです」とか言うのだろうか?
ともあれ、現在の安保迷走と同じくらい重要な変化が起きたことは確実である。外国人参政権とか、どのみち国会を通過しない法案で大騒ぎしている場合ではないよ。