金と金

過去一週間を振り返って、わりと重要だったのが金の価格と金正日の訪中だろうか。
金価格に関して言えば、ダウの下落が続いているこの数日間で、上げているのだ。オンス1200ドルを超えてしまっている。原油は順調に75ドルまで下げてきているから、これはユーロとドルの双方に対する不信感が高まっているということの現れだろうか。
ただ、ここで「やっぱり金投資?」となると大火傷を負う可能性が高いので、用心しなくてはならない。世界経済がこのまま不況に突入すれば(その可能性はきわめて高い)、インフレ懸念は遠のいて、金価格は低下するからである。何度か繰り返していると思うが、私の予想は年末に原油バレル40ドル、金オンス500ドルというものだ。それだけ深刻な不況が、少なくとも欧米を覆っているという見通しなのだ。
ただし、金価格に関して言うと、不況が回避されて次のバブル局面に突入しても、やはり下落する可能性が高い。バブルの中で価格を休場させる株や土地に比べて、金はあまりに退屈な資産なのである。」

金正日に関しては、3月の韓国艦爆破・沈没以後での新展開としての訪中である。胡錦濤と会見し、大連と天津を見学して帰っていったよし。
韓国艦爆沈事件は、誰がどう見ても金正日というよりは北朝鮮軍の徹底抗戦派のしわざである。韓国政府も、それは理解していよう。中国が本気で北朝鮮の現体制の維持にコミットするジェスチャーをしたことで、この問題は雲散霧消してしまうはずである。北朝鮮は中国に飲み込まれ、北朝鮮軍は人民解放軍に飲み込まれ……という未来が透けて見える。それでも北朝鮮の核問題が解決されれば、アジア情勢は一挙に好転する。鳩山政権のウルトラCも、このあたりにあるのではないだろうか。

面白い動きを見せているのが、イランだ。ニューヨークでイラン外相が国連安保理の15ヶ国の大使をディナーに招待したかと思えば、今度は「ブラジルの提案には耳を傾ける」と言い、なかなか核問題の解決に意欲的なのである。もともと、核不拡散条約から離脱する気はないとも言っている。

アメリカ側で目が離せないのは、やはりバイデン副大統領であろう。3月に中東歴訪をした際には、最終訪問地のエジプトのムバラク大統領が突然腎臓結石で手術を受けるということで、バイデンの訪問をキャンセルしてドイツに旅立った。だが私は、バイデンは中東入りする前に、ドイツでムバラクと会ったものだと推測している。ムバラクが入院したハイデルベルクは、アメリカ軍のドイツにおける巨大基地(ラムシュタイン、だったか?)から200キロくらいしか離れていないのだ。
そして、そのバイデン、今度はスペインを訪れたのだが、ここではフアン・カルロス国王が肺の手術を受けた直後である。しかも国王は、どういうわけか首都のマドリードではなく、地中海沿岸のバルセロナで受けている。そして手術の翌日に、元気になってバイデンと会っている。
これは自身オバマよりもはるかに高齢なバイデンが、「話が合う」という理由で高齢の首脳ばかりを選んで訪問しているというだけかもしれない。湯治場で顔見知りになる老人たちのような感じか。
だが、非常にわかりにくい − キッシンジャーによるニクソン訪中の露払いなみにわかりにくい、仲介外交が展開されている可能性も、なしとはしない。ムバラクもフアン・カルロスも、イランとの間のメッセンジャー役を務めているかもしれないのである。半歩引いたような二人の位置は、善意の仲介者にぴったりなのだ。特にスペインは、イランとは600年前から外交関係があるということで、どんな裏のチャンネルがあるのか、知れたものではない。イランがホルムズ海峡で大軍事演習を行っても原油価格が頭打ちなのは、このへんに理由がありそうである。