ラフッド米運輸長官、ギリシャ

レイ・ラフッド運輸長官について、英語版のウィキペディアで調べてみた。イリノイ州、つまりオバマ大統領の地元選出の、共和党の下院議員で、リンカーンを尊敬しつつ、利益誘導を盛大に行うということで、閣僚としての適性については各方面から疑問が抱かれたようだ。イリノイ州のブラゴジェビッチ現知事が2006年に再選を狙って出馬した際に、対立候補として出ることが有力視されつつも、けっきょく出なかったというから、オバマのシカゴ人脈に何か貸しがあるというのが長官登用の真相だろう。
そのラフッドが、「トヨタ車の欠陥が、もっとたくさん見つかっても驚かない」と発言。トヨタに苦しい選択を強いるために、欠陥情報を隠していたことに対する制裁金課してきたりしている。制裁金の一六四〇万ドルというのは、トヨタにとってはもちろん大した額ではないが、面倒くさくなって支払うと、罪を認めたことになってしまうのだ。彼の過去から見た限りでは、ラフッドはオバマと特に近いわけではない。むしろ、獅子身中の虫で、ビッグ3だかUAW(全米自動車労組)から献金されて政権の利益と関係のないところでトヨタ苛めをやっている観もある。トヨタ車の売上も、割引のおかげもあるとはいえ回復しているわけだし、オバマ政権の中心的な政策がトヨタ潰しというわけでもなさそうだから、トヨタとしてはアメリカ政府を相手に、徹底的に低強度紛争を戦うというのが賢明な手ということになる。風向きが変わるまで、弁護士費用を抑えつつ、たらたらと裁判を続けていくのだ。もともと一時は引退したラフッド長官は、どうせじきにいなくなる。

ギリシャ国債ドイツ国債とのスプレッド(金利差)が7パーセントに達した。IMFを救援チームからはずそうと、ギリシャ首相が画策したという噂が流れたためという。ドイツに恩を売るのに絶好のチャンスなのに、アラブ勢も中国も「貸します」と手を上げてこないのは、誰もこの債務が返済不能だと見ているということなのだろう。
ギリシャの問題は、根本的な解決は不能だ。GDPを超える借金を、きちんと働いて返す国民性だとも思えない。返済が可能になるような引き締め政策を続ければ、政権崩壊どころか内戦になりかねない。IMFの関与を避けたいのも、そのためだ。だから、この問題は先送りと、独仏による目立たない穴埋めというのが落とし所になるはずである。だが、その後にはイタリア、スペイン、ポルトガルアイルランドが続く……というのは、みなさん御存じの通りだろう。これらのどこの国でも、東ヨーロッパ諸国でも、ユーロが発足しさえすれば、ヨーロッパ経済は活力を取り戻すというお題目に乗せられて、引き締め策に従ってきたのだ。それがバブル崩壊でさらなる引き締めでは、暴動が各地で勃発するだろう。だが、ギリシャ一国ならまだしも、PIIGSの不良債権問題、財政赤字問題を合計すれば、いかなドイツといえども支えきれない。つまり、ユーロは実質、通貨として死んでいる。それでも何とかなっているのは、GDPの二倍に達する日本が発行する円、双子の赤字で身動きのとれないアメリカの発行するドルと、ハード・カレンシーはゾンビ通貨ばかりだという事情による。

アメリカでは、ダウが微減、原油も微減ながら依然として八六ドル超の水準だった。嵐の前の静けさなのか。原油が下がらないのが不思議なのは、オバマ大統領が一週間ほど前に、アメリカ大西洋岸地域で海上油田の試掘を許可すると発表しているからだ。公約を破棄する形のこの動きは、私は対イラン政策として出てきたものだと思う。イランに対しては、「あなたはそれほど必要でないよ」と発信し、イスラエルに対しては「イランに対して依存度をそんなに高めるわけではないよ」と安心させる、という一手だ。じっさいにイランとの和解がこの先すんなり行けば、アメリカ側で試掘が実行され、成功しなくとも、原油価格は下がるだろう。FRBとしては、利上げが必要なくなるのである。だが、その前にインフレが走りはじめれば、利上げ → 金融機関大量破綻という、誰もが恐れていたシナリオが発動されることになる。