回復の陰に

ダウは上げ、原油はバレル86ドル+、金はオンス1100ドル+と、アメリカ経済は依然好調である。だが「長期金利の値上がりを予想して」円安に振れたという説明は、ちょっと不思議だ。
一つには、今のアメリカは長期金利上昇にとても耐えられないだろうという点。もう一つは、ユーロに対しても円は下げているという点。
まあ、ユーロの場合は130円くらいが適正で、そこに回帰しつつあるという見方もできる。ギリシャ債務危機で一時的に異常な水準までユーロが下がっていたのだと。だが、ユーロ圏が抱えている時限爆弾はギリシャだけではなく、そのギリシャにしても次の債務危機が5月半ばにはやって来る。ヨーロッパ全体の経済について発言力が強く、国民感情としては「ケチ」の一言に尽きるようなドイツの地方選挙も、5月だ。どうなることやら。
だが、円安は日本の景気にとってはグッド・ニュースで、これが続けば株は上がり続ける。トヨタも利益はともかくアメリカでの売上は回復しつつあるし、JALの大改革もさして耳目を集めない。日本はほんとうに回復基調に乗ってしまった観がある。
恐ろしいニュースが一つ。イギリスとアメリカで、国債の利回りがごくわずかながら一部の低リスク民間債務の利回りを上回ってしまったという。ドイツでは昨年9月に同じことが起きているそうだ。ただ、これが国債の供給が激増したためで、国の信用がゆらいだわけではないというロイター論説子の分析は正しいだろう。民間銀行よりも国のほうが信用力があるというのは、金本位制時代にはありえても、銀行が扱う商品である通貨が国の信用に裏付けられている現状では考えられないからだ。
欧米は小康状態とあって、現在はむしろ中国経済のほうが危険視されている。中央銀行にあたる中国人民銀行の総裁も景気過熱に対して警鐘を鳴らしているのだ。アメリカも中国が為替操作をしているかどうかの調査報告書を準備中である。だが、中国政府としては上海万博終了までは、何もしたくないだろう。アメリカにしても、中国の為替操作の手段がアメリカ国債の大量購入であるという現状においては、実質的な方策を講じるとも思われない。