政局流動化の行方

平沼赳夫氏が新党を立ち上げる。首相の二世、三世の中でまだ首相になっていない平沼氏だが、政治家としての力量はむしろ安倍、麻生、福田、鳩山よりも上だと思われる。政界にもマスコミにも、そんな平沼氏の心酔者は多いようだ。
心酔者が出るのは、平沼氏は本当に保守的な信念を持っているからだろう。だが、政治家として − 一国の首相として、強い信念を持っていることは、必ずしも望ましいことだとは言えない。特に平沼氏の「保守」というのは、「反中国」という、必ずしも日本の国益に結びつかない(まあ、それとは逆の、まったく無思慮な「中国万歳」にしても、有害なのだが)ポジションなだけに、きわめて危ういと言えよう。
日本国家としてもそう考えたようで、早くも平沼氏の危険なカリスマを封じ込めるための動きが出た。言うまでもなく、与謝野馨である。ハト派できわめて有能な実務家の与謝野氏は、自民党にとっての柱石のはずだが、彼の離党に対して谷垣総裁は特に慰留はしていない。これは与謝野氏が自民党を離れても谷垣党であり続けると、わかっているからである。
平沼+与謝野新党が可能となったのは、与謝野氏がこれまで外交について発言してこなかったからだ。だが、中曽根康弘の秘書官出身で、父親はハト派の外交官という与謝野氏は、昨今のいわゆる保守とは毛色を異にしている。平沼新党が存在感を増せば、平沼氏に対するブレーキとなり、平沼新党が没落すれば、政権党への橋渡しをして、平沼氏に適切な「上がり」を調達する役目を果たすのだろう。
平沼氏は、一度は大病を患っている。与謝野氏もそうだ。そんなボロボロの老人二人で、こんな芝居を打つということは、大きな政策変化の前兆だと見るべきだ。その政策変化が何なのか − 前回に記した安保破棄なのか、それともそれ以上に根源的なものかは、今のところ見当もつかないのだが。