迷走するアメリカ

いよいよ打つ手が尽きて来たか、敵を作るまいとする八方美人のスタンスにもともと無理があったか、オバマ政権が迷走を始めたように見える。
一つは、銀行に対する課税強化の問題だ。具体的な方法は定まっていないものの、リーマン・ショック後の救済劇でウォール街の金融マンばかりがいい目を見ているというアメリカ世論の(もっともな)反発に配慮して、銀行の利潤なり融資のリスクなりに応じて、課税していく方針という。だが、ボーナス課税はしないそうだから、ますます金持ち金融マンばかり優遇しているように見えてしまうのではないか。とはいえ、オバマ政権、基本的にウォール街寄り(アメリカ経済の数少ない「柱」の一つだからね)なので、懲罰的な政策もとりにくいのだろう。
もう一つは、対中関係である。なんと、今になって台湾に武器を売却しているのだ。また、オバマ本人は、ダライ・ラマとの会見を約束したとも伝えられる。そして、どこまで関係あるのかは、わからないが、グーグルが中国からの撤退を検討中とも(中国政府の検閲を許していたらば、人権活動家が騙されてメールの中身を当局にさらすことになったのだとか)。
私は別に中国の肩を持つつもりはないのだが、今のアメリカは中国に依存する度合いを大幅に深めている。巨額に上る国債の消化でもそうだし、大軍を投入しつつあるアフガニスタンにしても、中国の裏庭だ。いっぽう、中国としては他の国々の消費者がほしがる廉価な消費財カドミウムで塗装した子供向けアクセサリーとかね)をどしどし作って輸出しており、それほどアメリカ経済に深く依存しているわけではない。なのに、中国がアメリカを怒らせるのではなしに、アメリカが中国を怒らせているのだ。どうなることやら。
その中国だが、金融引き締めに傾いている。現時点では銀行預金の準備率の引き上げだけだが、利上げも視野に置いているというのが、一致した見方だ。人民元のドルとの為替レートを固定しているせいでドルの買い取りが巨額に上り、それが過剰流動性をもたらしているわけで、利上げよりは通貨切り上げのほうが早いと思うのだが、それは最後にとっておこうということなのか。いずれにせよ、「上海万博が無事終了するまで待とう」とか言わないで、引き締めに入ったあたりは、なかなか偉い。まあ、バブル経済の常として、ちょっとの引き締めが大暴落を招いたりするかもしれないのだが。
この中国の金融引き締めの報に接し、また企業決算が悪そうなので、アメリカではダウが下げている。ダウは0.3% の微減なのだが、S&Pは1% 超を下げているから、けっこう大きい。寒波が去ったこともあって原油がちょい下げたのはけっこうだが、それでも前年同月比で倍の80 ドル台は維持している。
そして、日本。JALは法的整理、上場廃止という見通しが強まっているが、それはあまり株価の動きには関係がなさそうである。むしろ、中国の引き締めのほうが大きく報じられている。そのいっぽうで、前年同月比で経常収支黒字が70% も増えており、つまりはリーマン・ショック以前の水準にまで復調したわけである。輸出部門の好調、外国における景気崩壊不安と、バブル発生の前兆は増えているように見える。
さて、その日本と、ぎくしゃくしていたアメリカの関係だが、ヒラリー長官は、来日に際してソフト路線でいくそうだ。中国との間に隙間風が吹くようになって、いきなり日本の重要性を思い出したとのこと。ということは、状況次第では、いきなり日本の重要性を忘れたりもするのだろう。当然ながら、日本側はそのあたりを見透かしている。あるいは、そうした相手に対する洞察のまったくない、ただの外交音痴なのかもしれないが、いずれにせよ、日本から大きな譲歩がアメリカに対してなされることは、ないであろう。