大・大東京圏の勃興?

軽井沢に引っ越した知人と、正月に話しをする機会があった。
「毎年、400世帯ずつ、人口が増えている。こんな町、軽井沢以外にないよ」とのこと。
増えているのは新幹線通勤組で、それもごく普通のサラリーマンが多いという。確かに、東京23区内で、ある程度グレードの高いマンションか、さらには一戸建てを買うお金があるのであれば、今の軽井沢(もっとも、かつてに比べて北軽井沢その他、そうとうにエリアが広くなっているのだが)なら森の中の、かなり広々とした庭つき一戸建てが買えるだろう。
人によっては、軽井沢に定住することの利便性は少なくない。テニスもゴルフも、至近でプレーできる。水がおいしい。空気がおいしい。アウトドア派には理想の住まいだ。しかも、戦前の上流階級の別荘地として発展したことのもたらす、グレード感(じっさい、旧軽井沢・南軽井沢地区の別荘群は素敵だし、洒落た店も多い。代官山のフレンチの名店「パション」もカジュアル・レストランを出している)。
週日を活気はあってもごみごみした東京で過ごし、週末を軽井沢で過ごす。あと、問題は子供の教育くらいかというと、すでに二件、エリート学校の建設が進められているという。そうなると、向上心があり、しかも豊かな生活の何たるかを知っている家庭にとっては、ますます魅力的な場所だということになる。
軽井沢の高級住宅地としての発達は、言うまでもなく新幹線の開通によって可能になったことだ。だがもう一つ重要なのは、日本の大企業の雇用の形態が変わりつつあることだろう。大量の人員を抱え、一人残らず平等に面倒をみるという、かつての日本的経営は姿を消しつつあり(日本航空の緩慢な倒産劇は、その象徴だと言える)、代わって(1)キャリア蓄積型(かつての幹部候補生)、(2)専門職(弁護士、会計士、プログラマー、シスエンなど、外注可能な部分を担うプロフェッショナル)、そして(3)置き換え可能な労働力、の三つのパターンへの分化が発生した。
企業が社員の新幹線通勤に補助金を出すのは、一つには持ち家奨励のリターンが少ないためもあるが、もう一つは、少なくとも幹部候補生に関しては、それだけの費用をかけてでも豊かな生活を送ってもらい、リフレッシュしてもらいたいという考えの現れだろう。
(2)のプロフェッショナルたちにしても、自己管理の一環として、リフレッシュできる環境に一戸建てを持ち、膨大な蔵書なり趣味の品々なりを蓄える(プロフェッショナルは成長したオタクであることが多い)というのが理想の生き方かもしれない。
かつての、仕事、仕事、仕事のモーレツ会社人間(古いね)から、よく働き、よく遊ぶ、欧米型ビジネス・エリートへの転換が、ようやく目に見える形で表れてきたのだ。
新幹線通勤の可能なリゾートとしては、後は那須などがすぐに思い浮かぶ。小田原なんかも、新幹線とロマンスカーが止まり、伊豆・箱根への玄関口でもあるとあって、悪くないかもしれない。外房も魅力的だが、これは成田エクスプレスの延長によって通勤圏になるのだろう。そういえば、つくば学園都市も通勤圏になった。
これは、要するに東京のニューヨーク化だ。マンハッタンの中心部には大金持ちが暮らし、その周りには大金持ちの用を足す人たちが暮らし、そのさらに外に大金持ちたちの週末用の屋敷が連なるという、二重円環構造である。
そうなると、東京の未来図は、ぐっと想像しやすくなる。都心のオフィス・スペースの多くは超高級マンションに転用され、環状7号線から外はスラム化し、圏央道くらいから緑が増えて、その彼方に「新たな郊外」が誕生する。
格差社会・日本が、地図の上でもはっきりするのである。