(1日おいて)2009年の終わり

とうとう2009年も大晦日となった。過ぎてしまえばあっという間だが、怠惰な私にはイベントがテンコ盛りの一年だった。個人的には初の著書『バブルの興亡』の刊行にこぎつけ、それにともなって何やら人と接触する機会が激増したように思う。来年はさらに経済評論、政治評論の仕事も増えそうなので、どうなるのか、楽しみでもあり、ちょっと恐ろしくもある。
日本に関しては、通年で株価は微上昇という結果になった。だが、世間的には2番底に対する恐怖感が蔓延している。繰り返しになるが、日本の2番底だけを警戒していてもしょうがない以上、この不安は的外れなのだが、鳩山政権の大迷走(政権獲得の可能性がきわめて高いとはっきりしてから半年後の今日になって、「成長戦略は半年後に細目を詰める」などと発言)と大不敬(「陛下! 安芸の国へ!」)を見ていて、心細くならない日本人のほうが珍しいであろう。ただし、不安はボラティリティーよりも意見調査ではっきりする。
いっぽうのアメリカだが、こちらは問題はすべて来年に持ち越し、という感じである。巨額の政府債務積み上げにもかかわらず、10年物財務省証券のオークションの結果、利回りは3.8% から3.79% にかえって低下する始末で、何がどうなっているのやら。ダウも昨日は0.03% の上昇を見せている。ほのかに日光が差し込んでいる、ということか。そのいっぽうでは、中国製鉄管に関税をかけようとするなど、不穏な動きも出てきている。中国としては、ますますドルを支える理由が希薄になるではないか。アメリカはこの調子で、2番底の危険性はわずかながら遠のき、調子にのって(命綱のはずの)中国を怒らせている。
ここで興味深いのが、アメリカの、本当の命綱であるはずの日本に対する態度だ。『選択』最新号(通常は毎月1日発売だが、年末年始号とあって、もう送られてきた)の巻頭インタビューだ。エズラ・ボーゲルハーバード大教授の談話で、「日米台頭、無理だと思うよ。日本は核も持っていないし」などといった話を引き出しているのである。『ジャパン・アズ・ナンバーワン』で知られ、現在は訒小平の伝記を執筆中だともいわれるボーゲルにしてからが、日本がアメリカから中国へと乗り換えようとしている可能性については、少なくともこのインタビューを読んだかぎりでは、いっさい考えていないようなのが興味深いではないか。日本は恫喝すれば何とかなると、あいかわらず考えているようなのである。
日本が中国に大接近をすることには、私は疑問を抱くものである。胡錦濤はなかなか立派だと思うし、周恩来は20世紀を代表する政治家の一人で、特にアジアに限って言えばナンバー・ワンかもしれない。だが、それと中国という国と深い仲になることが、日本の国益に繋がるかどうかは、また別である。人口の統計誤差が1億の桁に達しており、しかも膨大な貧困層を抱えている大国との距離の取り方には、細心の注意を払わなくてはならない。
もちろん、外交政策の立案者たちにとって、こんなことは自明であろう。彼らはけっきよく、「アメリカには、もうついていけない」と判断したのだと思う。冷戦では朝鮮とベトナムという、二つのアジアの戦争を回避したが、ブラック・マンデーでアメリカを支えようとしたことは感謝されず、かえって円高で膨張したGDPを目の敵にされてジャパン・バッシングであり、はては市場原理主義による国家改造の標的にされてさんざんな目に遭うことになった。そしてアメリカ人は、リーマン・ショック後も何一つ反省していないようである。こんな彼らについていけば、亡国あるのみだと、日本国家の中枢は判断したのだろう。
その判断は正しい。だが、本来であれば、日本は世界で最高の生活水準を国民に実現した大国である。独自路線を歩むべきなのだ。ところが、「アメリカにつこうか、中国につくか」と、2番手戦略に固執し続けている。このままでは、

Out of the frying pan and into the fire

という結果になりはすまいか、それだけが心配である。
まあ、中華圏に完全に包摂されてしまうというのも、それはそれで(中華料理屋と足裏指圧が増えて)悪くはないのだが。