(一日おいて)事態は平常に向かいつつ

けっきょく、アメリカはこの一年を危機克服モードのままで乗り切りそうである。
ところで、その前に、日曜の謎かけの答えを。
お金に価値があるのは、「何に使うのか決めないでよいから」
そして都市の魅力は「何をするのか決めないで訪れても、必ず何かすることがある」という点にある。お金も都市も、未決定性にその力の源泉があるわけで、実は裏表の関係にある。都市で展開される複雑な分業と高度な専門家があってこそ、そこで流通する貨幣には価値があり、ゼロから農産物や鉱物、水産物を生み出す非=都市部に対する優位が発生する。東ローマ帝国が衰退した後も一千年間にわたってコンスタンチノープルが存続できたのは、貿易路の交差点にあったこともさりながら、やはり偉大な歴史を誇る巨大都市としての吸引力が強烈だったからだ。そして東ローマ/コンスタンティノープルが発行していたディナリウス金貨の品位の高さのほどは、現代イラクの通貨が「ディナール」であるあたりにもうかがわれよう。大きく魅力的で活発な都市は、周囲の農村部に対して常に黒字を確保でき、その通貨は購買力を維持できる。つまり、都市は通貨発行権を持ちうる。
現代の世界で、この考え方にマッチするのは、たとえばニューヨークであり、ロンドンだ。どちらも「魅力」しかないような都市である。基本的に移動能力の高い国際金融マンを引きとめておくために、あの手この手で迫って来る。バンコクも、とにかく人に金を使わせる、魅力的な街だ(街だった、というのが当たっているかもしれない。タクシン騒動以後は、やはり没落期に入っているのだろう)。シンガポールはさらに意識的で、同性愛を合法化したり、ナイトライフに対する規制を緩めたりして、魅力と才能のある人材が来やすく(あるいは、出国しなくともよい)ようにしている。生き残りに必死だし、何が生き残りに必要なのかを、よく理解しているのだ。
東京は、どうだろうか?
日本人にはわかりにくい(特に、通勤地獄を経て均質空間であるオフィス街に向かうサラリーマンにはわかりにくい)のだが、実は東京は国際的には非常に魅力のある街だ。国際的に活動するジャーナリストなどにアンケートをとったところ、東京はコペンハーゲンチューリヒについて三番目に魅力的な街だった、などという結果が、確か昨年ヘラルド・トリビューン紙に掲載されていた。先行するのがコペンチューリヒということは、東京は大国の首都としても、人口一千万超のメガシティとしても、ナンバー・ワンだということになる。魅力の秘密は、異様に便利な地下鉄網、何を食べても美味しい、そしてバーが素敵、ということだった。銀座なんていうのは、さしづめそんな東京の心臓部なのだろう。新宿も、いい線いっているように思う。日本の国力が落ちていく中で円が強い背景には、ちゃんと東京の魅力という重要ファクターがあったのだ。

さて、アメリカ経済である。飛行機自爆テロに対する不安は一瞬燃え上がったが、もう消えている。今度はナイジェリア人だった。ナイジェリア人の犯罪としてはファックス詐欺(「私は日本人ビジネスマンで、ただいま代金が払えずにホテルに監禁されています。取引成立、無事解放のあかつきには、いくらいくらの謝礼を支払いますから、どうぞ下記の口座に………」)というファックスが、送られてくる、というやつだ。だが、国内では、油田地帯のテロ騒ぎが国際原油相場を左右するなど、武闘派の犯罪(まあ、当事者たちは政治闘争だというのだろうが)も、ちゃんとある。それがとうとう、国境を越えて溢れだしたということか。
それはともかく、ダウはけっきょく前日比で微増で、1万500ドルを超えた水準を維持している。金と原油が下がっているから、全般的に楽観的なムードが漂うということなのだろう。
FRBは、すでに出口戦略を模索しはじめている。リーマン・ショック以後で資産が倍増して2.2兆ドルに達しているのだから、それは出口に急ぎたいだろう。そこでバーナンキが提案してきたのが「定期預金」だ。銀行がFRBに預金をして、FRB金利を支払う、というもの。たとえ金利が微々たるものでも、リスクなしで巨額資金を運用する先ができるわけで、これは悪い考えではない。1ヶ月から6ヶ月が預金期間であり、1年以上になることはなく、一度預けると早期の引き出しは出来ない、預金の額も金利もオークションで決める、などと、いまだ模索中だが、来年早々に細目が決まって発表されるのだろう。だが、これで市場からの資金吸い出しが出来なかった場合は、やはり利上げとなる。
一つ面白い話があって、2008年に崩壊して摘発されたネズミ講マルチ商法)の件数は40だったのが、2009年には150に激増しているという話。金額的には2008年のほうが大きかったが、これは500億ドル(ざっと4兆5000億円)詐欺のマドフ事件が、昨年摘発されたから。リーマン・ショック以後、というくくりで見ると、マドフも今年に入れるべき計算だ。
経済危機は、こんなところにも影を落としていたのである。