ダウ、10500に到達

アブダビがドバイ救済に、ぽん、と100億ドル。
そしてエクソン天然ガス企業XTOを完全買収して、290億ドル。
こうした気前の良い動きのおかげで、ダウはじわり、と前日比で0.5%上昇した。3月の底からは、相当に上げている。
だが、そのいっぽうで、オバマ大統領は主要銀行に対して、もっと企業に対して貸し出しをするよう訴えている。ということは、貸し出し額は伸びていないのだな。日本のバブル崩壊後の、「貸し渋り」騒動と同じではないか。つまりは、どこの銀行も、先行きが不透明な間は、融資を伸ばしたくない。シティとウェルズ・ファーゴが強引に政府の救済資金を返済したのは、政治圧力で弱い企業に貸付を強制されるのを回避するためだったと考えると、腑に落ちる。「ゴミ箱銀行」にされまいとしたのだ。
だが、貸し出しが伸び悩むのであれば、資産価格もそれほどは上がらないであろう。そして、キャピタル・ゲインが見込めないのであれば、いずれは下がらざるを得ない。
エクソンのXTO買収も、株に対して時価の25%のプレミアムをつけての動きだった。景気が再度悪化して、石油価格もガス価格も落ちれば、大損である。回復を見込んだ大胆な動きだが、実はかなりリスキーだ。原油天然ガス価格の推移は(常にそうなのだが)、要注目、ということだろう。

いっぽう、CNNでは「イラク、世界第2の産油国になる寸前」という情報が流れた。だが、何のことはない。ロイヤル・ダッチ・シェルイラクで採掘権を獲得し、懐かしのメジャーたちに加えて中国の巨艦シノペック、ロシアの怪物ガズプロムまでが、メソポタミアに出揃った。これを機に、1970年の古い推計値のままの埋蔵量を、上方に引き上げようか、というのである。そうなれば、イラクはイランを抜いて、世界第2位の原油埋蔵量になるという話だった。
だが、イラクに各国の石油会社が進出して、もっと大きな埋蔵量の油田を掘り当てようとするのはけっこうなのだが、今のイラクは、かつてのサダム時代の安定した独裁とはうってかわって、民主制とは名ばかりの渾沌状況である。各種のテロと大規模な油田の共存という意味では、昨年の原油価格暴騰の引き金を引いたナイジェリアに似ているわけで、これもグッド・ニュースと言っていいのか。
ところで、そのイラクへの軍事進攻について、ブレアが
「ブッシュに乗せられた。戦争指導者としてスポットライトを浴びる誘惑に負けて、たとえ大量破壊兵器がなくとも攻めるべしと決断した」と言いだしている。メディアの使用が上手なブレアなだけに、この発言には警戒するべきだろう。BBCも『サダム・フセイン』なんていうドキュドラマを作って、名誉回復に一役買おうとしている(血まみれの独裁者ではあっても、それなりに国を思っていました、みたいな)。落とし所は何か? ブレアの人格を抹殺し、ブッシュの業績を引きずり降ろし、イラクでの発言力を拡大しようというあたりだろうか。イギリス単独では、もちろん、これは難しい。だが、そのイギリスは、最近中国と接近している気配が濃厚なのである。たまに「ドルはもうダメ」式の論調も、イギリス発だったり、イギリス人発であることが多い(たとえば、最近のニュースウィーク誌の、ナイアル・ファーガソン論文)。
英米関係の悪化については、かつて別の所で書いたのだが、要はアメリカがタックス・ヘイブンに対する締め付けを強化しているのだが、それが情報国家、金融国家イギリスにとっては死活問題だというあたりが争点か。そしてアメリカにとって、アルカイダとの戦いは、国際テロ・ネットワークの資金源を断てるか否かで帰趨が決まって来る。少なくとも、アメリカに打てる手というのは、それくらいだ。だから、死活的な不一致が、アングロサクソン両国の間に生じてきた、というわけである。
不気味なブレア発言も、そうした動きの一環として読みとるべきだろう。