回復しつつあるアメリカ、接近を続ける日中

アメリカの小売が前月比で1.3%の増加を見せ、消費者感情も改善されてきたというデータが発表され、昨日のダウは微増だった。いっぽう、ドルも微増し、金はオンス1200ドル超のピーク水準から下落を続け、オンス1120ドルを割り込んだ。原油価格も、ドルの上昇分くらいは下げている。つまり、アメリカ経済は回復基調を示しはじめた。
正常化を受けて、議会下院を金融規制改革法案が通過した。金融機関の役員の報酬体系(報酬そのものではない)について財務省が許可を出すことになり、株主が拘束力のない投票を行使するようになるという「お灸を据える」的なものと、デリバティブに対する規制を強化し、また総額1500億ドルの金融機関清算基金に、資産100億ドル以上のヘッジファンドは「税」を払い込まなくてはならないとする、というものだ。
役員報酬云々は、まあ、ガス抜きである。ただし、これはもめたら痛い。また、世論の風向き(英仏も含めて)を嗅ぎ取った敏腕金融マンは、方向転換を目論むだろう。ただ、バブル水準まで資産価格を上げたいのであれば、相当な剛腕の持ち主が市場のあちこちにいることが必要なわけで、高額報酬に対して冷たいまなざしがあっては、それが不可能となってしまう。金融マンたちにとっては、マネーゲームプロスポーツで、高利潤をはじき出して高額報酬を手にして、何が悪い、という理屈だろう。ただ、スポーツの試合は一回こっきりだが、マネーゲームの後遺症は長々と続いてしまうので、二つを混同されては困るのだが。
デリバティブに対する規制は二段構えで、一つが清算基金への払い込み義務、もう一つがFRB財務省、そして各種金融監督機関(ファニー・マエ、フレディー・マックの上位機関など)の代表者で構成する Financial Services Oversight Council の創設だ。金融機関の監督が一元化されるわけで、これ自体は望ましい方向への改革だと言える。
とはいえ、金融規制の強化(たとえ、どれほど微温的なものであるにせよ)は、金融引き締めと同じである。リスクを無視して無茶な貸付を行う金融機関というのは、規制の問題もさることながら、バブル経済の症状としては、当然なのだ。リスク認識が劇的に低下するのが、バブルだからである。だから、バブルがひとたび始まれば、金融機関、もしくは金融界は、政治圧力を行使して規制を緩めてしまう。バブル崩壊後、回復待ちでの段階は、あまり役に立たないのである。利潤機会が課題評価されるバブルを再発させないことが、金融機関にまともな行動をとらせるうえでは最も効果的なのだが、あいにく今のオバマ政権が目指しているのはバブルの復活だ。
いっぽう、1500億ドルの清算基金は、掛け値なしに正しい措置である。だが、サブプライム・バブルにおける資産価値の膨張分は、それよりも一桁、二桁大きかった。確か10兆ドルを超える規模ではなかったか。そうだとすると、これから発生する不良債権というか、債権から担保資産の値下がり分を差し引いた純孫は、5000億ドルから1兆ドルになるだろう。バブルを再発させて、前回のバブルによる不良債権を吸収しようとすれば(ちょうど、ブッシュ政権サブプライム・バブルでもってITバブル崩壊を迎撃したように)、そのバブルが崩壊した段階で発生する不良債権、金融機関の資本毀損分は、数兆ドルという規模になる。やはり、Too Big to Fail の問題は回避できなくなってしまう。そうこうするうちに、インフレか、ドル暴落か、という選択肢がやって来て、債権と債務がまとめて(ということは、両者の差である不良債権も)価値を失うというのが、順当な落としどころだろうか。
いっぽう、アメリカ以上に回復が目ざましい中国だが、中国経済そのものよりも注目するべきは、日本の中国に対するすり寄りかたであろう。習近平副主席を天皇陛下に会わせようと、首相が宮内庁に要請しているというのだ。
これは、問題だと思う。というのは、習近平氏はいくら次期確定と言われていても、まだ副主席でしかないからである。国家元首でないのだ。しかも、次期確定だって怪しいのが中国だ。以前、日本が徹底的にコミットしたのは、胡耀邦だったが、あっけなく失脚したではないか。ということで、この会見については、私はかなり否定的である。鳩山政権が東アジア・サミットで始まり、ついで政権内最高実力者の小沢一郎が大訪中団を率い、そのいっぽうで普天間問題はこじれ、アメリカとの密約をほじくり返そうと必死になっている。つまりは、アメリカから中国に乗り換えますよというシグナルを発しまくっているのが、今の日本なのだ。
これは、危ない。アメリカは中国に国力面で凌駕される日が接近していることをひしひしと感じているわけだが、日本が反米親中のポーズをとり続けていると、ある日いきなり、
「日本が中国側についたら、うちは負ける」という、太平洋政治の基本を思い出すに違いない。その時のアメリカの反撃は、凄まじいものとなるだろう。そのための準備が、今の民主党に出来ているとは思えない。
経済面でいっても、日中のどちらにとっても、アメリカ市場はあまりに大きい。かといって、アメリカ市場、ドル決済を経由しない国際分業体系の構築、つまりは「ドルはずし」を行う準備を、日中のいずれもきちんと進めているとも思えない(だいたい、中国という国は、こうした複雑で面倒くさい作業を着実に進めるというセンスが欠けている)。
だから、日本としては、中国熱、反米熱はいったん覚まさないといけないだろう。そのうえで、冷静に外交戦略を練り直さなくてはならない。もっとも、内政面でも混迷を深めつつある鳩山政権を相手に、それは荷が勝すぎる要望かもしれない。