アメリカの国民純資産、上昇

リーマン・ショック前にアメリカの国民純資産は64.5兆ドルだったが、その後、暴落している。純資産というのは、株(企業)と住宅(家計)の資産ストックの合計であり、株価も住宅価格も暴落しているのだから、当然だろう。
その純資産が、2四半期連続で増えている。第3四半期には、5%も伸びて、今や53.4兆ドルまで戻してきたのだ。中でもアメリカの上場株式の時価総額は、第3四半期中に1.04兆ドル、率にして実に17%という急回復ぶりだ。
だがまあ、ここまでは回復で、ここからの成長はあまり見込めないというのが、アメリカのエコノミストの一致した見方である。バブル水準の近くまで戻した資産価値が、バブル・シナリオなしでいつまで維持できるかは見ものである。金融引き締めが起これば、ひとたまりもないだろう。
その金融引き締めだが、インフレが激化する見通しが出てきた。中国が、アメリカを抜いて世界最大の自動車市場になったのである。2009年の中国の自動車販売台数が1270万台と、アメリカの1030台を抜いたのだ。アメリカがそこそこ復調し、中国が生活水準を高めつつ成長を続けるとすると、原油価格は当然、上がらざるを得ない。アメリカ・モデルにおいて、生活水準の上昇というのは、とりもなおさず「石油をもっと燃やす生活」だからである。燃やせば燃やすほど、豊かになり、豊かさの終焉も近付くというわけだ。
アメリカの回復の脆弱さというものが、これを見てもわかるだろう。前回のサブプライム・バブル、けっきょくは原油価格の暴騰がインフレ懸念をもたらしたことで、終わってしまった。アメリカ人は広い国土で分散して暮らしているために、ガソリン価格は死活問題だが、その死活問題が再度頭をもたげてきたわけだ。アメリカの本格回復のニュースが出れば、FRBはためらわず金融引き締めに入る。その結果として、回復が全然本格的でない、脆弱なものだったことが、明らかになるはずだ。アメリカの国民純資産も、再び半減するのである。