ここで日本に目を転じると……

アメリカではオバマ大統領が、総額1500億ドルの追加景気刺激策をぶち上げている。そろそろ、為替か金利に跳ね返ってくるのではないか。いっぽう、市場はドル安が株高を呼び、株高がドル高を呼び、ドル高が株安を呼び……という、きわめて頭の悪い展開となっている。大統領も市場も、現実を直視したくないということなのだろう。このままだらだら行く可能性もあるし、明日には焼け野原という可能性もある。医療制度改革法案がどうなるかが一つの分け目だが、現在平壌を訪れているボズワース特使が帰国の途に就くなり、北朝鮮が崩壊するという可能性も無視できない(情報が乏しいので、妄想がそこまで先走ってしまうのだ)。アメリカの経済動向は、これ以上考えても、情報が増えない段階に来ている。視界、いたって不透明。思えば、ブッシュ時代が経済面では巨大な視界不透明時代だった。超巨大バブルは発生したが、雇用は伸び悩んだ。貧富の格差も開くいっぽうだった。希望のないバブルの時代だったのだ。だが、それでもバブル開始の2003年から、住宅危機発生の2007年まで、4年間もかかっている。今回の「オバマ・リバブル」も、何年か続く可能性が、なきにしもあらず。ただ、私はそれよりはずっと早く、危機が訪れると思う。
拙著『バブルの興亡』は、日本で次に起こる危機の話なので、アメリカで目立った動きがなさそうな今の時点で、日本の現状をさらりと見ておくのも、悪くないだろう。
はっきり言って、現状は「鳩山不況」である。無駄を切ると言うから緊縮予算になるかと思えば、史上最大級の歳出規模になり、ところが赤字国債が増えすぎたと文句を言われれば、また考え直すふりをする。
「100兆円予算を5年間続けます」
くらいのことを、最初に言っておけばよいのに。
予算規模は、政府の発するシグナルの中でも、わりと発信性の高いものだ。どーん、と出せば、おおっ、と世論は反応するのである。そしてマスコミがどう書こうとも、時の政権が景気浮揚に本気になっているという明確ないシグナルがあれば、日本経済に血流を巡らせる寡黙な実務家たちは、ソロバンをはじき(古いね、比喩が)、がぜん、動き始める。
このあたりの機微が、鳩山「孫」政権(子供でさえない!)には全然見えていない。昨日は菅直人(子供だ)と亀井静香(大人だ)がやりあって、菅が「これは亀井政権ではない」とやったという話がある。まあ、ガス抜きのための演出なのだろうが、これを聞いた私の感想は
「亀井政権だったらよかったのに……」というものだった。
亀井は、いつ塀の向こうに落ちるのか不明だという大問題はあるが、大げさな動きのシグナル効果、撹乱戦術の効用をよく理解した、プロの政治家である。しかも、本気で改革経済の負け組のことを心配しているようでもある。ついでにいえば、借金猶予法みたいな珍法律を平気で成立させてしまうあたりで、「何をするかわからない奴」という「勲章」もぶら下げている。
日銀を恫喝して大金融緩和をさせるには、適任なのだ。鳩山=白川会談では何も動かなくとも、亀井=白川会談なら、確実に動きは出るだろう。日本経済をよくするには、こうした人が政権を率いないといけないはずなのだが、なぜか首相の座は毛並みの良さだけのとっちゃん坊や(坊やとっちゃん?)たちにばかり転がりこむ。体制の硬直化というのは、こういうことをいうのだろう。
例の「仕分け」でのスーパーコンピューター予算凍結も、ばかばかしかった。スパコン自体は古くなりつつあるのかもしれない(パソコンの並列接続でもクラウドコンピューティングでも、代替出来そうな気もする)。だが、ハイテク基礎研究、基礎技術への投資、それも500億円ぽっち、削ってどうするというのだろう? 日本政府が日本の将来の技術力を気にしていないと、宣言しているようなものではないか。「事務次官という地位をなくそう」という、ロベスピエールポル・ポトか、と耳を疑いたくなる「改革」案も、またしかり。いったい、民主党の官僚叩きというのは、何なのだろう。きちんと機能する組織の指揮系統を破壊して、誰が得をするというのだろうか。普天間問題もまたしかりで、しかも沖縄の基地問題でもめているときに、過去の沖縄への核持ち込み密約問題まで蒸し返している。いったい、何を考えているのかさっぱりわからないが、民主党としては日本人を守り、食わせていくよりも、自民党政治の解体のほうが優先されるということなのだろう。だが、自民党自体はすでに存在しないも同然となっているために、来年の参院選民主党に対する制裁が下される可能性も低い。
こうなると、私としては早く危機に起こってほしいと願うばかりである。だが、財政は動かないだろう。首相も蔵相も、鈍すぎるのだ。そうなると、機敏な反応を示すのは亀井であり、齋藤次郎である。日銀+ゆうちょ銀で資金じゃぶじゃぶ、次なるバブルがやって来る、となるわけで、けっきょくこれは亀井政権だったと、後々言われるようになるのかもしれない。