ダウ上昇、だけど0.1%

アメリカ時間の昨日、バーナンキFRB議長の最新の経済認識が公表された。
労働市場は弱く、消費者は慎重、企業も個人も資金繰りは苦しい」
この認識の背後にある情勢認識は、
「当面、金利は上げられない」
というものだ。
朝方、市場は言外のメッセージを評価して、一気に54ポイント上げた。だが、午後には急落する局面もあり、けっきょく一日を通しては0.1%の上昇である。
急落が見られたのは、投資家界が「われに返った」からとしか言いようがない。低金利は株価にプラスだという、午前中の条件反射じみたリアクションから、
「ゼロ金利を続けなくてはならないほど経済が悪いのでは、企業は投資を持続させることが難しい」という、何やらもっと人間の思考じみた反応へと推移してきたのだ。
ウォール街人種が内省的になったのはけっこうなことだが、これは同時に、そろそろ底からの急回復の興奮がさめてきたことを示唆するものだ。じっさい、トレーダーのコメントで
「来年の強力投資案件が何かが見えない」というものが、Yahoo! 本国版のファイナンス記事に紹介されていた。バブル崩壊後の景気回復策が失敗に終わる最大の理由である。拙著(くどくてごめん)『バブルの崩壊』で論じ、このコラムの前のほう(大昔なので、どの日だったか覚えていない)でも書いているのだが、いくら金利を下げ、財政出動をして景気を下支えしても、バブルの時に巨大だった将来期待がしぼんでしまうため、投資も雇用(雇用も先行きを見て支出を決めるという点では、一種の投資である)も消費(クレジットカードに頼る度合いが高くなっているので、これも期待に引っ張られる)も伸びないのだ。
しかも、現実問題として、失業率は10%を上回ったままである。10.2%から10%に下がったことを受けて、楽観論も出てきているが、先のバーナンキ・コメントでも
「来年の失業率は9.3%から9.7%の間で推移する」としている。十分に高いって! これじゃ、誰も必要以上に投資も消費も伸ばそうとしたにであろう。
いっぽう、明るいニュースか否か、判断しにくいのが、消費者金融の融資の伸びである。10月のデータが出てきて、9カ月連続で下落していることが判明した。だが、下落幅は年間換算で30億ドル台で、予想が90億ドルだったことを思えば、それほど悪くはなかった。失業率と同じことである。何だかんだ言って、楽観論がアメリカ経済のあちこちに出てきているようなのだ。だが、バブルの時の、
「こっちに行けば、だいじょうぶ」式の、判断停止が可能なほどに強力なシナリオは、依然として存在しない。やがてシナリオの欠如から有力な投資先が存在しないということが明らかになるとともに、株価が今後上昇することはないと誰もが判断して、市場は下げに転じるのだろう。