不穏な動き?

昨日、本国版の Yahoo!ファイナンス欄に登場した記事で、
北朝鮮、兵士に市民を撃つよう指示」というものがあった。許可なく国境(おそらく、中朝国境の鴨緑河だろう)を超えようとする者は射殺せよと、国防会議が指令を出したというのである。脱北者は2007年に2500人、昨2008年には2800人と微増しているが、数日前に発表されたデノミの実施にともなって、相当の混乱が起こると予想しているのだろう。
確かに、紙くずみたいな北朝鮮通貨でデノミを実施して、価値の乏しい箪笥預金さえ召し上げるというのは、末期症状である。朝日新聞の一面トップは「北朝鮮、非核化への行程表で日米韓が協力」というものだったが、下手をすると行程表とやらが出来上がる前に北朝鮮自体がなくなってしまうかもしれない。
どこ行きの行程表なのだ、などという意地悪は言わないにしても、北朝鮮崩壊はドバイがそうならなかった2番底の引き金となる可能性が高い。アメリカに衝撃波が走るには少し時間がかかると思うが、日本、韓国、中国と、アジアの証券市場が大混乱に陥ると思われるからである。
私が拙著『バブルの興亡』で予想しているのは、アメリカの危機が日本に行き過ぎた金融緩和を強いるという展開だったが、今の民主党政権の「反米」ぶりを見ていると(沖縄の基地問題でもめている時に、沖縄への各密約の40年前の密約の記録文書をほじくり出している!)、アメリカの危機に対してそれほど積極的に動くと限ったものでもないと感じ始めていた。
だが、日本国内の景気が悪化(デフレ、というのではないと思うのだが)している中で、半島動乱は重大事である。それでいて、財政状態は戦後最悪だ。歳出が90兆円を超え、歳入は30兆円台という、冗談のようなひどさである。歳入の1.5倍を国債でまかなっているのだ。そうなると、日銀の大幅金融緩和以外の選択肢はありえなくなってくる。鳩山=白川会談が結果を出さないのなら、亀井=白川会談で「効く圧力」をかけることになるだろう。金融モラトリアム法案まで通してしまった亀井金融相の剛腕(狂気?)は、交渉カードとして協力だ。
そして、北朝鮮のデノミは、今日実施される。

さて、北朝鮮以外で注目するべき動きは、湾岸からやって来た。ただし、先週のスター、ドバイではなく(「誰でも15秒間は有名人になれる」)、クウェートである。クウェート投資庁が、2008年1月に30億ドルで購入したシティバンク株を41億ドルで売却した、というのだ。
利益が出たのは結構だが、これはいったい、どう読むべきなのだろう。9月にはクウェートはシティ株は売却しないと言っていた。ドバイ救済のためにキャッシュが必要なのか、シティがどうにも危ないと判断したのか。同時期にシティ株を大量購入した機関、個人としては、他にシティにはシンガポールの国富ファンドやサウジアラビアのバフェット(私は「サウジのドバイ」というニックネームのほうが正しいと思うのだが)の異名をとるアルワリード・ビン・タラル王子などの名前が挙がっている。彼らのうち、もう一つくらいがシティ株を売れば、アメリカが危ないが、クウェートがドバイ救済に名乗りを上げれば、めでたし、めでたし、といったところか。それとも、来年3月にアブダビの持っているシティバンクの equity unites 75億ド分が株式化されることと何か関係があるのだろうか。
そのアブダビは、すでに所有していた英バークレイズ銀行の株式を売って、25億ドルの利益を出している。それでイギリスが金融危機を再発させたということがない以上、今回のシティ株売却も、通常の利益確定だと見るべきなのかもしれない。だが、バンク・オブ・アメリカが政府に対して昨年の危機の際に借り入れた救済資金450億ドルを返済して、救済資金を借りっぱなしなのはシティのみとなっている現状のもとでは、やはり不気味である。

北朝鮮クウェート=シティの他に気になる動きとしては、フィリピンの政治テロ、大虐殺の話しだろうか。アロヨにはマルコスの匂いがする。いや、マルコスが強権改革を目指したのに対し、アロヨはオールド・マネー代表で、ずっと性質が悪いように思える。良心派のアキノが亡くなり、ポピュリストのエストラダが活動を再開した中で、きわめてキナ臭い。
フィリピンは1997年の通貨危機もさしたるダメージなく乗り切っており、ここ数年は東南アジアの模範生の趣きがあったが、それもまたアロヨの手腕というか、政治的な鈍感さの発露だったということなのだろう。そのツケがやっと回ってきたのである。
フィリピン経済そのものは、それでも規模が小さいが、やはり政治がキナ臭さを増しているタイに飛び火しかねない。そうなれば、第二のアジア通貨危機だ。せっかく、リーマン・ショックを乗り切ったと思ったら、今度は地元発の危機である。

こうして、さまざまな不確実性をはらみつつ、新しい週が始まった。2番底を回避しつつ年が越せるのかどうか。