アメリカ景気に希望の光が差した……

アメリカ時間昨日(日本時間では昨夜)、全米の失業率データが発表された。前月と同じ10.2%になるものと思われていたのが、10%へと下がっていたことが、大きく報じられている。
さらにいえば、数日前にも取り上げたと思う Institute of Supply Management なる民間機関の調査で出てきた数字がよかったという事実がある。この調査、日銀の短観みたいなもののようで、景況/業績が改善していると答えた企業の数が、悪くなっていると答えた企業の数を上回っている状態が、すでに4カ月続いているというのだ。戦後のアメリカでは不況が10回訪れているが、そのいずれにおいても、同調査で「よくなっている」が「悪くなっている」を2カ月続けて上回ったタイミングで、不況が終わっていたという。それが、4カ月連続の改善だ。失業率が、いかにわずかとはいえ、低下したことと合わせると、ついに景気が回復しだしたのかと、希望を抱いてしまうではないか。
だがそのいっぽう、昨日にはまた、破綻銀行の数がついに130に達している。中でもオハイオ州の Amtrust(米国営鉄道 Amtrack に似た名前だけで、何やら不吉)は、資産総額120億ドル、預金総額80億ドル、不良債権総額60億ドル、預金保険公社支出(つまり純損)推計20億ドルと、かなり規模が大きい。また、バンク・オブ・アメリカが政府からの緊急融資を全額返済したのはよいのだが、そうなるといつまでも返済できないでいるシティバンクの経営状態が、いよいよ心配になってくる。
けっきょく、大型バブルが崩壊した後の景気後退では、通常のマクロ政策、つまり財政赤字と金融緩和は、マネーサプライを下支えすることは出来るが、マネーサプライを構成する金融機関発の信用通貨の裏付けとなる資産価格は支持できないということなのだろう。詳しくは拙著『バブルの興亡』(http://www.amazon.co.jp/gp/product/4062157128/)をお読みいただくといいのだが、期待が少々上向いても、バブル時の夢を見ているような状態にまで戻すことはなく、値上がり期待が大きな部分を占めていたバブル時の価格は下向きの調整を続けることになるのだ。
そして、この理解を裏付けるデータが一つ。アメリカでは、現在住宅ローンの借り手の1/4、約1070万世帯が、購入した住宅の価格が、ローンの残債を下回ってしまっているというのだ。私はこれは最終的にインフレで調整される(もっとも、輸入インフレだとすると、住宅価格は原油や金との関連で見て、あまり上昇しないことになるのだが)ので、こつこつ返済を続けるのがよいと思うのだが、「さっさと家を放棄しよう」と呼びかける学術論文(!)も出てくる始末で、住宅の売り上げが回復しつつある(と言われる)裏で、住宅危機は依然として進行中なのである。
このあたりの不透明さを反映してのことだろう。失業率微減、の報を得て、朝のうちに急上昇したダウは、昼ごろには失速して一時は前日水準を割り込み、最終的には前日比0.22%増と、ちょうど失業率の減った分と同じくらいの上昇を記録して終わった。金は下がり、原油とドルは上昇している。繰り返しになるが、大不況の時の二番底が、「やっと回復した」と誰もが思った瞬間に訪れた(上出来のホラー・サスペンス映画の趣きだ)ことを思うと、今回のささやかな「朗報」は、楽観的になるところではなく、やはり手に汗を握ってサスペンスに耐える場面なのだろう。