景気回復とアフガン増派

アメリカが自信を取り戻し始めている。
オバマ大統領のアフガニスタン3万人増派が経済悲観論のただ中でなされてはならないということなのだろう。FRBは参加の連邦準備銀行の担当する12地区のうち8地区で景気が改善したと言い、ガイトナーは不良資産救済計画(Troubled Asset Relief Program, TARP)をそろそろ解消しようとしている。ついでに言えば、景況改善と戦争増派でもって、オバマ医療保険制度改革を有利に運ぼうとしているのだろう。医療改革が成功すれば、確かに期待はかなり上向くものと思われるから、そこに向けて強気の姿勢と好材料をどんどんぶつけていくのは、戦術としては正しい。
とはいえ、好材料というのが、どの程度ほんとうなのか。FRBが嘘をついているとは思わないが、悪いデータも同じくらいたくさん出てきているのである。たとえば372都市圏のうち、失業率が上昇したところが162、減ったところが168だということだが、9月には失業率上昇が123、下降が223だったというから、明らかな悪化だ。民間企業の雇用減少も、減速しつつあるとはいえ、予想値16万を上回る16万8000人だった。また、金曜日には、より包括的な連邦政府の雇用統計が発表されるが、失業率は先月と同じ10.2%だろうというのが、大方の予想である。アメリカ国民の一割が失業状態にあるわけで、改善とは言い難いし、大恐慌以来最悪の不況から脱したとは思えない。
さらに言えば、景況が改善されている兆候があり、金が 1200ドル台に突入している現状において、FRBが金融引き締めに転じてもおかしくない。いや、すでに、じわりとではあるが、超金融緩和は止めに入っているのである。そこへもってきて、財務省もTARPを止めれば、景気は支えを失ってしまう。アフガニスタンへの3万人増派も、イラクと同じように、最初のうちはよくとも、ほどなくして戦死者激増という結果になるだろう。アフガニスタンは、依然として帝国の墓場なのである。
景気がよくなったジェスチャーを繰り出し、戦時色を強くして軍の最高指揮官である大統領の立場を強化するのと、なりふり構わず景気の下支えを続け、戦死者がなるべく出ないように、派遣兵力を減らすのと、オバマ政権の先行きを決める重要法案の審議に先立って、どちらが吉なのか。指導者としては悩むところである。初の黒人大統領、それも40代の若さでそうなったオバマとしては、あえてリスクの高い道をとったということなのだろうか。だが、医療制度改革が上院を通過しなければ、大統領の指導力は決定的に損なわれ、国民心理に与える影響、つまりは景気に与える影響も少なくないだろう。そうなるとオバマとしては、ますますアフガニスタンにのめりこまざるをえない。指導力の源泉が、そこにしかなくなってしまうからだ。あとは投入兵力の逐次増大、戦死者の激増、そして財政破綻という、お決まりのコースである。