アメリカ経済は……今こそ危ない?

世の中に景気循環というものが存在する以上(本当に循環するものなのか、「たまに経済成長が起こる」という性質のものかはさておき)、「暴落が来る」「不況が来る」と言い続けていれば、いつかは必ず予言が的中することになる。要は、タイミングの問題で、ついに暴落なり恐慌なりが起こるまで、予測がはずれ続ける恥ずかしさががまんできれば、経済に関しては誰でも予言者になれるのだ。資本主義経済そのものだって、人類が滅びれば消え去るわけだから、あと1000年くらい待つつもりがあるのなら、マルクス主義者だって自分の正しさを証明できるだろう。
とはいえ、私の2番底予測は、「来春まで」というものである。今しばらく、がまんしてお付き合いを願いたい。株価の暴落や経済の長期低迷が、どれだけの苦痛を人の生にもたらすかは、この20年を日本人として生きてきた(その間、海外暮らしも長かった)私には、よくわかっている。自分の正しさを証明するために、一刻も早く相場に暴落してほしいと思っているわけでは、決してない。
と、まあ、ことわりを入れておいたうえで。昨日のダウは1パーセントと、かなり大きく上げている。だが、「ドルが下がり、コモディティが上がり、エネルギーと鉱山株がおかげで上昇して相場を引っ張る」というのは、何のことはない、市場がインフレを懸念しているということではないか。その理屈がわかれば、

 インフレ懸念 → FRBの引き締め → 脆弱な回復が雲散霧消

というシナリオに誰もが思い至り、万事休す、のはずである。
そして、そのFRBだが、超金融緩和からの「出口戦略」として、住宅ローン債権を手放す道筋を探りつつあるという。だが、回復しつつあると伝えられる住宅市場は、FRBの債権買い上げによって下支えされているからこそ、回復しつつあるわけで、出口戦略即崩壊かもしれないのだ。
こういう局面で失敗が起こりやすいのは、経済学ではすべての変化を滑らかな曲線を描くものとして考えがちなせいである。どこかに、熱すぎず冷たすぎずの「最適点」、他のすべてよりましな落とし所があると信じているのだ。
だが、人は未来を予想して活動する生き物である。そして、未来に関する予測は、計算に入れなくてはならない変数が多すぎるために、「あれか、これか、それとも……」という、多数の選択肢から選び取る作業ではなく、「あれか、それともあれ以外か」の二値的なものに収れんしがちである。サイコロではなく、コインの裏表なのである。それは、投資活動の場合は「買うか、買わないか」「持ち続けるか、売るか」だということになる。FRBの出口戦略が発動されれば、それがどれほどスムーズな撤退を心がけたものであろうとも、必ずや債権と株の、大量の売りを誘発するだろう。それは、資産市場の鉄則なのである。
いっぽうの年末商戦だが、こちらもぱっとしない。International Council of Shopping Centers なる団体が発表したデータなのだが、1000人に対する電話調査の結果わかったのは、クリスマス・プレゼントなど年末に向けての買い物を「すませた」という回答者は、全体の42%にのぼるということだ。危機の真っただ中の去年同時期に「すませた」と答えた人たちが全体の48%だったのから比べて、1割以上の低下である。回復を示す指標が色々と出ているが、個々の家計が感じている先行き不安が、それだけ強いということだろう。
では、売れ行きはどうなのだろう? こちらは、1年以上営業している小売店という基準で対象を選んで行う調査で、昨年11月の売上は、前年比で7.7%減だった。今年の予想(まだ集計中である。最終結果はアメリカ時間で木曜日に出てくる)は3、4%の増加だというから、悪くなさそうなのだが、回復が本格化して5〜8%の増加になるというのが当初予測だったから、それよりは振るわないのである。また、サンクスギビング休暇の際の売上は前年比で0.9%増だが、人出は2.7%減だという。傾向がはっきりと読みとれるわけではないのである。ちなみに、オンラインでのショッピングは11%増えたということで、小売業という巨大な雇用先が淘汰されるという構造変化も加速しているようだ。
けっきょく、3月の底からダウは6割の上昇を見せているわけだが、これはすべて連邦政府FRBが強引に相場を押し上げているだけで、インフレ懸念が強まるとともに、あるいは「もう大丈夫」と当局が判断するとともに、ちょっと引き締めただけで、崩壊する可能性が高い。1932年の大不況の2番底は、「もう大丈夫」と誰もが思った瞬間に訪れたということだから、明るいニュースが増えてきた昨今こそ、本当に気をつけるべきタイミングということになる。