ドバイからアメリカへ?

昨日(日本時間で昨夜)、ドバイ政府が「ドバイ・ワールドの債務は保証しない」という声明を出した、らしい。今一つ言葉使いが不明瞭だそうだが、確かに法的にはドバイ・ワールドは政府系ではあるが、一私企業である。アメリカのファニー・マエ、フレディ・マックのようなものだ。とはいえ、もともと天然資源のないドバイだからこそ金融センター立国を目指したわけで、金融センター化の博打が失敗に終わりつつある以上、保証しようにもその資金がないのは明瞭である。
いっぽう、ドバイのお隣りの金満国家アブダビは、自国の銀行に流動性を供給し、優良資産は買い取る余地があると、危機の悪化は回避したいが、自分が損をかぶるつもりはないという立場をはっきりさせた。これもまあ、当然と言える。ドバイ・ワールドは、まだ再建計画を発表さえしていないので、資産のどれだけが腐っているのかも不明だ。とはいえ、いちおう危機的な状況が明らかになっているところからのスタートだから、いきなりデフォルトとか破綻という、かつてのアジア通貨危機や、記憶にまだ鮮明なリーマン・ショックのようなショッキングな結末にはならないだろう。
とはいえ、ちっぽけなドバイでこれだけの危機となると、海外への波及も相当なものである。欧州銀行が向う見ずにドバイ・ワールドに貸し付けた巨額資金は、けっきょくドバイ国内のあほな建設プロジェクトだけでは吸収できなかったようで、アメリカに相当な額が流れていたようである。
2007年に、ドバイ・ワールドはニューヨークのマンダリン・オリエンタルを3.8億ドルを出して購入。
2008年、リーマン・ショック前夜、フレディ・マックとファニー・マエの経営危機が顕在化した後になって、フォンテンブロー・マイアミ・ビーチ・ホテルの所有権50%を、3.7億ドルで買収。ちなみに、マイアミのフォンテンブロー・ホテルというのは、1960年頃にサム・ジアンカーナとサント・トラフィカンテの二人のマフィアの巨頭が、CIA主導のカストロ暗殺計画の本部にしたこともあるという「名門」だ。
ドバイ・ワールドは、このほかにもアメリカ西部時間の今日開業予定の、ラス・ベガスの「シティ・センター・カジノ・リゾート」のオーナーでもあるが、開業にこぎつけるまでに投じた資金は、全部で54億ドルになるという。
高級ホテルにカジノ・リゾートと、まるきりかつての日本のバブル紳士と同じというのが微笑ましい。けっきょく、巨額資金を安全に投入できそうで、流動性も高い物件となると、アメリカの商業不動産ということになるのだろう。だが、そのアメリカ商業不動産こそが「次なるサブプライム」と噂される不良資産の大海なのだ。アメリカ各地で零細銀行がばたばた潰れていく大きな理由が、商業不動産の不振なのである。ドバイの危機がアメリカの高級商業不動産物件の投げ売りに繋がれば、本当に「第二のサブプライム危機」になってしまうだろう。ところがオバマ政権は、住宅ローンの融資条件を緩和しようと住宅ローン業者に圧力をかけるという、すでに起きてしまった危機の後始末で手いっぱいである。ドバイから商業不動産経由アメリカへ。この危機の波及経路は、まだ世間の耳目をあまり集めていないだけに、危険千万だと言えよう。