ドル、ドバイ、七面鳥

アメリカはサンクスギビングである。だから、アメリカ発のニュースでは、ニューヨーク名物、老舗デパート「メイシーズ」のパレードなんかが大きく取り上げられることになる。「行く年来る年」みたいなものだ。
それでは金融関連もお休みかというと、そんなことはない。特にサンクスギビングは、アメリカだけの(しかも、美味でもない七面鳥を山のように食べることが主眼だという、アメリカ人以外には理解不能な)祭日である。世界の市場はアメリカとリラックス気分を分かち合うことはないのだ。じっさい、二つの注目するべき事件があった。
一つ目は事件というよりは、これまで続いていたトレンドがある一線を越えたということなのだが、ドルの為替レートがついに86円台まで落ちてきたということである。
個人的には、為替介入が全然なければ、1ドル50円+程度のものだと考えているのだが、1ドル86円というのは、輸出企業の収益分岐点を割り込んでいそうで、大型介入に対する要求が爆発的に増える水準なのである。だが、藤井財務省は介入に消極的だ。
そのいっぽうで、超大型の金融緩和がやりたくて仕方のない亀井金融大臣という人物が閣内の実力者である(閣内で最大の実力者、という気もする。他のみなさんは、どれほど人物が立派でも、腕力がなさそうなのだ)。
拙著『バブルの興亡』では、まずアメリカ発の株価暴落、ドル暴落と来たうえで、来年の参院選民主党が何が何でも勝とうとして日銀法改正をちらつかせて超大型金融緩和が発動される、というのがバブル復活へのシナリオだった。じっさいに発足した民主党政権を見ていると、「来年の選挙で負けるかもしれない」といった、生存本能から出てきて当然の思考が、欠如しているように見える。理想主義者の素人集団の恐ろしさ、ということか。だが、そこを生存本能を飛び越えて狩猟本能の旺盛な亀井静香が補ってくれそうだ。
いっぽう、アメリカの株価暴落、ドル暴落という連鎖が起こる前提として私が予想していたのは、アメリカにおける金融機関か自治体の破綻である。金融機関の破綻はじわじわと続いており、全米ですでに126行が閉鎖され、預金保証公社は大赤字だが、それでも金額的には大したことがない。リーマン・ショックの比ではないのである。
そして、30年ものの住宅ローンの金利が再度史上最低まで来ていることにもうかがえるように、FRBは徹底した金融緩和で臨んでいる。ファニー・マエなどの公社債も、長期国債も、どんどん買いいれているのだ。それでドル暴落にいたらないのは、株価がとりあえず回復を続けているからだろう。株価が本格回復に入れば、超低金利でも一定のドルの為替水準は維持できる。
ところが、そこへもってきてのドバイ金融危機である。600億ドルの借金支払いを6ヶ月間待ってほしいというのだ。6つ星ホテル建設で話題になったドバイだが、こうして見ると6が三つ並んで、まるで「オーメン」である。なんとも不吉だ(半年くらい前に、カリフォルニアの住宅地にいきなり野生のクマが登場、誰もいない家の庭や道路を走り回り、楽しんで、山へ帰っていった。当時は、「ベアー・マーケットの精だ」などといって楽しんでいたものである)。
ドバイの債務危機は……同乗の余地がない。というか、バブルが起きている当初から、ドバイの高級不動産を買うのはマイケル・ジャクソン(病人)とかベッカム(馬鹿)といった人たちで、バブルの気配が濃厚だったのだ。たとえ本当に儲かるビジネス・モデルにもとづいて国を運営しているのだとしても、心がけが悪いのでいずれ危ないと感じさせていたのだ。
もっとも、ドバイの600億ドルがそのまま不良債権化するとも思えない。原油価格の復活もあって、同じUAEの金満国家群が、助けに来てくれるだろう。ドバイ破綻 → 世界不況 → 原油価格暴落、というのがいちばん嫌な展開だろうからである。
そこで問題なのが、救済パッケージが出来上がるまでの時間だ。のろのろしていると、ヨーロッパの大手銀行がどこか飛ぶ可能性があるのである。東ヨーロッパですでに巨額の不良債権を積み上げている欧州銀だが、ドバイのニュースでも欧州市場は敏感に反応している。次の危機は欧州発、ということか? いずれにしても、暴落は間近に接近しているように思えてならない。