ダウはもちこたえ、財務長官交代の噂が。

ダウがもちこたえている。低落傾向が出ていた先週末に比べて、130ポイント以上の上昇となって、投資界を安心させている。ヒューレット・パッカードの好決算と、中古住宅の販売件数が前月比で10%増と急上昇したことが、買いに向かわせたということのようだ。
だが、油断は禁物である。中古住宅販売は、初めて住宅を購入する世帯に対する8000ドルの減税措置の賜物で、アメリカ国民が経済に対する自信を取り戻したことの現れと考えることは難しい。自動車購入を後押しする Cash for Clunkers と同じく、じきに効果の切れるカンフル剤だと見るべきだろう。ダウ平均の一日の動きを見ても、市場が開くと同時に、ぴゅん、と急上昇して、すぐにピークを迎え、その後一日かけてゆっくりと下落していく、という形をとっている。上値が重い、とかいうやつなのだ。やはり、回復シナリオ、成長シナリオが欠如していることが痛いのだろう。
景気回復の弱々しさの反映ということか、ガイトナー財務長官の後任の名前が浮上してきた。つまりは、ガイトナー更迭論の強まりである。そして、その後任候補者というのは、J・P・モルガン・チェース銀行の会長、ジェームズ・タイモン James Timon である。インタビューされたタイモン本人は「国のために一仕事するのは光栄だ」などと言っている。アメリカにおいて、こうした状況で大人はみんなこう言うものだという見方もできるが、いっぽう、すっかりその気になっていると、とれなくもない。
タイモン氏の人となりなど、私は知るよしもないのだが、ニューヨーク連銀の幹部としての、昨年の金融危機に際しての行動から、ウォール街のしもべという悪評が立っているガイトナーがやめて、ウォール街の主人がやって来るという人事は、まるで出来の悪い風刺マンガだ。よほど景気回復に自信がない限り、自殺行為である。
だいたい、失業率が上昇し、金融機関は巨額ボーナスを復活させているとあって、「普通のアメリカ人の犠牲でもって、ウォール街を救済した」として、FRBに対する怨嗟の声が高まっているほどなのだ。タイモン入閣は来年の中間選挙にも、悪い効果を及ぼすだろう。
もっとも、政治的なセンスが鋭いオバマなだけに、そんなことは先刻承知だろう。タイモンの名前が浮上したのも、単なる観測気球だと見るほうが正しいと思われる。あまりに政治的なリスクが高いのだから。仮にタイモンが意中の人だとすると、景気が本格回復したと確信できるまで待つものと思われる。
とはいえ、私は2番底論者である。別に「そうなればいい」とは思わないが、10中8、9、今の回復は腰折れすると考えている。その際にはもちろん、ウォール街出身の財務長官など、憶測ですら名前が出なくなるだろう。2番底到来でガイトナーを生贄にした後で、財務長官に最もふさわしいのは、ウォール街との全面戦争も辞さない構えをたびたび見せてきた、ニューヨーク州司法長官のアンドリュー・クオモだ。カリスマ的な州知事として記憶される故マリオ・クオモ同州知事の息子でもあり、政治的な野心も満々だろう。景気が再度悪化すれば、2012年の大統領選でオバマに対する民主党内の有力な対抗馬になるとも思われる。そんなクオモを閣内にとりこみ、恨まれること必定のウォール街退治をさせるのである。
ビル・クリントン北朝鮮に特使と派遣し、その際にはヒラリー長官をアフリカに派遣する、つまりは露骨に邪魔者扱いするほどに「えぐい」人事センスを発揮したオバマだ。何より大事な財務長官人事では、ドン・コルレオーネの金言

Keep your friends close. Keep your enemies closer

を実施して、クオモを指名するというのが、今のところの私の読みだ。逆に、タイモンが指名された場合、オバマが大統領になって世間一般との接点を失ったか、それとももともと候補者としては優れていても、最高権力者としてはたいしたことがなかったのだと考えるべきなのだろう。少し先回りした話題だが。