オバマ大統領、「2番底」を懸念

President Obama warns of a "double dip" recession.

という報道が日本時間で昨晩になされていた。AP通信電で、どうやら北京で以下のようなことを言ったようである、オバマさん。

「雇用促進のための減税を考慮中だが、財政赤字がこれ以上増えると、国民(や外国の投資家)がアメリカ経済の先行きに悲観的になって、回復してきた景気が、また低迷しかねない」

なんとまあ、思慮深いことか。だが、記事の見出しから、そういう仮定と選択の問題を語っているあたりは読みとれない。


「もうじき2番底が来るよ」

と言っているみたいなのだ。気の毒なことに、ここでは率直で明晰なものいいが仇になっている。

で、景気のほうだが、一昨日に読んだテレビの経済コーナーのコメントをもとにした記事によると、多額の補助金つきの自動車の買い替え需要を別にすると、9月の消費の伸びは0.4%だったとか。そして、昨日には住宅着工件数の予想外に大きな低落(10%以上低下!)が報じられている。

これに数日前の雇用統計(失業率10%超え!!)や、銀行の貸し出しが伸びていない報道などを組み合わせると、株価はともかく、実物経済面ではすでに2番底に向かっての滑落が始まっているかのようだ。

巨大規模と言ってよい景気刺激策が効かない、あるいはその効果が早くも薄れてしまった理由は簡単だ。少し長くなるが、おさらいしてみよう。

サブプライム景気は、バブルだった。

バブルとは、夢である。資産価値が上がり続けるという夢である。

一度覚めた夢に戻ることは不可能である。

バブルという夢が覚めると、値上がり期待が消滅して、高すぎる価格の資産だけが残される。

高値でババをつかまされまいと、誰もが資産市場から逃げ出す。

こうした中で、政府が何をしようとも、それで一息つく企業や家計はあるだろうが、ばら撒かれたお金は投資に向かわない。消費にしても、Big Ticket Item と言われる、雇用牽引力のある品々には向かわないだろう。また、同じ財・サービスにお金を使うのでも、ワンランク落として、来るべき収入減(すでに、そう感じられている)をのりきろうとするだろう。そうした、警戒心に彩られた合理的行動を全経済主体がいっせいにとる結果、バブルの後では経済対策が効かなくなってしまう。
それが、アメリカで現に起きつつあることなのだろう。株価を支えているのも、「コモディティ(主として原油)」「ドル安」という材料である。原油上昇はドルが弱くなっているからだが、外国からの資金流入に頼っているアメリカとしては、ドル安期待の定着はどうしても避けたいところだろう。また、

ドル安 → 株価上昇

というのは、輸出企業が経済の主力となっている日本ではまだしも、主たる輸出商品がドル(!)であるアメリカでは、筋が通らない。いや、通るのだが、それは「インフレ・ヘッジとして株が買われている」という、経済の近未来にとって非常に不吉な形において、でしかありえない。

さて、ここでもう一度、オバマ発言をよく読むと、「さらなる財政赤字の積み増しに対する懸念」である。ここ数日でバーナンキガイトナーも、ドルの価値を守るべく口先介入を行っている。オバマ発言も(特に、発言の場所がアメリカ国債の最大口保有者の中国の首都なだけに)、ドルの価値を維持するためのものだと思われる。
だが、それがすぐにアメリカ本土に伝わり、不吉な色合いが何倍にも誇張されてしまうのが、現代(電信ケーブルが海底に敷設されて以来)の政治というものだ。中国政府を安心させたつもりが、もともと弱いアメリカ人のコンフィデンスに、さらに冷水を浴びせる結果になったかもしれない。
今年のアメリカは、昨年と同様に、サンクスギビングもクリスマスも寒そうである。